My important place【D.Gray-man】
第29章 想いひとつ
「…──……っ…」
微かに聞こえたのは、風が通るような音。
だった。
がしっ
「──!?」
同時に頭を掴まれる。
驚いて顔を離す。
見えたのは、
「…勝手…に、殺す……な…」
ひゅーひゅーと空気の漏れる音を零しながら、それでも濁った言葉を紡ぐその口だった。
「……か…んだ…?」
目を見る。
真っ黒な瞳は、もう瞳孔を開いてはいない。
「…神田…?」
もう一度呼ぶ。
その目は確かに私を見ていて、片手で私の頭を掴んだまま。
ごぽっと吐血混じりに溜息をついた。
「何度…も…呼ぶな……聞こえて、る」
濁った声だったけど。
それは確かに神田の声だった。
──生きてる
──話してる
──私を見て
──ちゃんと、応えてくれてる
「…ッ」
目頭が熱くなる。
駄目だ。
泣くな。
泣いたら占いと同じになってしまう。
「っ…神田…」
「……うっせ……聞こえて、る…ってん…だろ…」
うん、わかってる。
でも、ごめん。
「神田…っ」
何か喋ってないと、泣きそうになってしまうから。
黙り込むと、嗚咽が漏れそうになるから。
「…神田…生き、て…ッよかっ…神田…ッ」
衝動のまま神田の頭を抱く。
何度も何度も、その名を呼んで。
私の頭を掴んでいた手は簡単に離れて、腕の中の神田は大人しく動こうとしなかった。
…動けなかっただけかもしれないけど。
「…ったく……大袈裟…なんだよ…」
濁って掠れた声は、少しだけ優しかった。