My important place【D.Gray-man】
第2章 空白の居場所
例えば。
なんの為に此処で戦っているのかと聞かれたら、私は即答できる"答え"を持っていない。
「お疲れ様。下がっていいよ」
「ありがとうございます」
「あ、雪くん」
「はい?」
千年伯爵を倒す為とか。
人々を守る為とか。
世界の為とか。
そんな大それたこと、簡単には口にできない気がして。
「シャワー浴びた方がいいよ。体中、AKUMAの血で塗れてる」
「ぁ…はい」
苦笑混じりに忠告してくれるコムイ室長に、頭を下げて司令室を出る。
よくよく自分の体を見れば、確かにあちこち赤黒い血に染まっていた。
任務疲れで、ぼーっとしてたからかな…忘れてた。
室長の前で汚い姿見せちゃったな…反省しないと。
「うわ、また思いっきりやったなー」
ごしごしとマントの血を擦りながら歩いていると、前方から明るい声が飛んできた。
顔を上げれば、赤毛の青年と目が合う。
「ラビ」
「任務お疲れさん」
眼帯で一つしか見えない翡翠色(ひすいいろ)のタレ目。
眼帯と同じ黒いバンダナにカーフピアスと、随分と自己主張の強い姿のこの青年は、黒の教団のエクソシストの一人。
次期ブックマン後継者のラビだ。
「さっきユウと其処で会ってさ。また組まされたんさ?」
「まぁ、そんなところ」
黒の教団配属部隊の、探索班。
通称"ファインダー"として働く私の仕事は、エクソシストのサポート役。
ファインダーの仕事は様々で、一人で赴(おもむ)く任務もあれば、ファインダー複数で現地に飛ぶことも。
そしてエクソシストと供に、イノセンスの回収やAKUMA討伐に行くことも少なくない。
特定の相手と組む訳じゃなく、適当にその時々で任務に当てられて現地に赴く。
だけど何故か私の場合、神田とバディのように組まされることが多かった。
「今度は何やったんさ」
「目の前のAKUMAの首を、神田が六幻で刎(は)ねて。血が、こう…ぶしゃーっとシャワーのように」
「うえ…もういい、もういい。よくわかった」
身振り手振りで説明すれば、顔を青くしたラビに止められる。
顔を青くしたいのは私の方だから。
口とか体内に入らないよう、必死だったんだから。
AKUMAの血は毒素があるから、生身の人間である私には危険物でしかない。