My important place【D.Gray-man】
第22章 金烏.
「長官とケーキを食べるなんて、雪さん肝据わってますね」
「あはは、そうでもないよ。威圧感半端なくて、怖かったし。ケーキの美味しさで、なんとか緩和させました」
美味さで緩和ってなんだ、そんなもん聞いたことねぇよ。
モヤシと飯なんざ心底嫌だったが、あまりに月城が笑顔で誘うから、なんとなく断れなかった。
…それだけ、こいつの存在は俺には大きいらしい。
「……」
最初はアルマと同じようなもんだと思った。
いつの間にか俺の中に浸透していて、隣にいて落ち着く存在。
だが違った。
あの切ない程に感じた、恋焦がれる想いは。
…あれは"あの人"に向けたものと同じ想いだ。
全く一緒かと問われれば、きっと違うと応えるだろう。
月城は月城。
こいつはあの人じゃない。
あの人を求める想いと、こいつに向けた想いはきっと違う。
明白な理由はないが、それだけははっきりと感じることができた。
──ただ。
「それより何食べよっか」
「そうですね…みたらし団子かなぁ」
「アレン、それデザートね。後で食べようね」
こいつに向いた俺の想いは、単なる好意なんかじゃない。
だったらここまで胸を掴まれたりしない。
「神田は何食べる?」
「…蕎麦」
「本当に好きですね、それ」
「だったら悪いかよ」
「そんなこと言ってませんから、睨まないで下さい」
「テメェが睨んでんだろうが」
「はいはい、睨み合いっこ禁止!」
月城越しにモヤシを睨めば、間にある体が背伸びして視界に顔を割り込ませてくる。
「神田は右、アレンは左。そこ定位置ね。それ以上近付くの禁止。暴言も禁止。手を出すなんて以ての外」
「…禁止事項が多いです、雪さん」
「だったら喧嘩しないの。ご飯は仲良く食べましょう」
肩を落とすモヤシにきっぱり言い切る月城の右手は、しっかりと俺の手を握りしめたまま。
…その手を、放したくはないと思った。
こいつはアルマでもあの人でもないが、今度こそ手放さずにいたい。
それだけこいつを想う気持ちは、焦がれる程に特別なもんなんだと、はっきり自覚したから。