My important place【D.Gray-man】
第21章 地獄のティータイム
「…別にいいよ。それでも」
心なんて昔も散々荒らされた。
でも、だから別にいいだなんてそんな自虐な気持ちじゃない。
「私はしがないただのファインダーだし。それ以上でも以下でもないから」
それでもいいと思えたから。
「中央庁にも教団にも、何も求めてないよ」
だって、
「お前──」
「神田が」
そうやって声を荒げるくらい、神田が私に目を止めてくれているなら。
「神田が、見ていてくれたら…それでいい」
それだけで、充分だったから。
「……」
私がこの教団で求めるのは神田だけ。
そう口にするのが、こんなに勇気がいることだったなんて。
ばくばくと鳴るうるさい心臓に、俯いたまま拳を握って胸に当てる。
最後の言葉は、情けなくもか細くなってしまった。
それでもきっと神田には聞こえたはずだ。
返事はない。
沈黙が怖いけど、顔を上げて神田の顔は見られない。
どんな顔をしているのかな…気持ち悪いこと言うなって、嫌な顔してたらどうしよう。
「本気で言ってんのか、それ」
長くも思える沈黙を止めたのは、ぼそりと零す静かな声。
先程吐き捨てるように投げかけていた声とは、まるで違う音色だった。
「うん」
促されるように、恐る恐る顔を上げる。
見上げた神田は、もう眉間に皺なんて寄せていなかった。
「馬鹿じゃねぇの」
「え。」
なのに次に出てきた言葉は、思いっきり呆れたもの。
「お前、俺の何を見てんだよ」
「え…っご、ごめん?」
「疑問形で言うくらいなら謝んな」
「わっ」
がしっと真上から頭を鷲掴まれて体が跳ねる。
今度ははっきり耳に聞こえるくらい盛大に溜息をついた神田は、呆れた顔で私を見下ろした。
「んなもんとっくに見てんだろうが。忘れたのかよ。月城雪って奴以外、見る気はねぇって言っただろ」
『俺が知っているのは、月城雪って名の人間だけだ』
それは教団のゾンビ化事件で、神田が口にした言葉だ。
…そうだ。あの時、迷いなく私を見てそう言ってくれたんだっけ。