My important place【D.Gray-man】
第22章 金烏.
「お前は俺が言う言葉全部、忘れてく癖でもあんのか。脳みそちゃんと使え」
「ぅっ、ごめんって…っ」
わしわしと月城の髪を掻き混ぜる。
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を抑えながら、逃げるように月城が顔を退く。
「忘れたりしてないよっでもそんなこと言われたの、初めてだったから…っなんか、信じられなくて…」
乱れた頭を整えながら、慌てて漏らすその言葉に呆れは増した。
俺はモヤシみたいに、歯の浮くような台詞を言う性格じゃない。
馬鹿兎みたいに、誰にでも隔てなく接する性格でもない。
あんな言葉、他人に易々と言わない。
それはこいつも知っているはず。
それでも口にしたんだ、なんで信じねぇんだよ。
「信じろよ」
思わず深々と溜息をつく。
月城が他人に簡単に心を開かない奴だってことは知ってる。
いつもどこか一線引いて、俺とも接してた奴だ。
だからって他人行儀な奴じゃないことも知ってる。
ロンドンの任務で、モヤシを心配する月城の姿は本物だった。
面倒臭いところもあるが、素直な一面だって持ってる。
その素直さを今出さなくて、いつ出すんだよ。
「…ガキじゃねぇんだ、何度も言わねぇぞ」
伸ばした手で、その頬に触れる。
俺の目と視線が合うように、僅かに持ち上げた。
…ったく、手間のかかる奴。
「お前が他人に心荒らされて、無視できる程どうでもいいとは思わない。お前がよくても、俺は納得できない」
簡単に周りに縋ろうとしない奴だから、そんな月城が俺を求めたその言葉はきっとこいつにとっても大きな言葉だったはず。
簡単に大事な言葉を吐かない奴だが、それは言葉の重みをそれだけ知ってるからだ。
そんなこいつが伸ばした手が俺に向けられているなら、迷わずその手を握っていたい。
…アルマの時は、手放してしまったから。