第21章 地獄のティータイム

　要らないと私を見限った、大人達の冷たい目。それにこの人の目は似ている。
　きっとこの人にとっても、いちファインダーのことなどどうでもいいんだろう。
　エクソシストのように特別な存在じゃないから。
　代わりなんて幾らでも利く。


「どうしました、黙り込んで。その口は飾りですか？」


　じゃあその威圧感を止めて下さい、なんてこと言える訳もなく。
　じっと向けられる鋭い目に、捕われたように動けない私は本当に罪人のようだった。

　もしかしたら…本当にそうなのかもしれない。
　こうしてノアの可能性を黙っている時点で、教団にとって私は──




「おい」




　思考を遮ったのは、飛んできた声じゃなく有無言わさない力だった。

　急に腕を強く後ろに引かれて、体が廊下へと傾く。
　バランスを失って倒れるかと思った体は、肩に触れた手がなんなく支えた。
　そのまま肩を抱いた手が、私の体を背中に回す。
　視界に広がって見えたのは真っ黒な服。


「こいつに何してる」


　低い声。
　見上げた先に見えたのは、さらさらの長い黒髪。
　…あ。


「おや。これはこれは、神田ユウではありませんか」


　穏やかな口調で、ルベリエ長官が呼ぶ。
　私を背中に隠して、立っているその人の名を。


「一緒にお茶をしていただけですよ。どうかね？　君も」

「遠慮する」


　ぴしゃりと強い口調で断ると、その体はすぐに踵を返して反転した。
　いつの間にか神田の頭上を飛んでいたティムが、ぽちょんと私の肩に乗る。
　振り返って私を見るなり、神田の眉間が深く皺を刻んだ。


「行くぞ」

「あ…っ」


　そのまま腕を取られて、強く引かれる。


「彼女は私と話していたのですがね」


　さっきと同じだ。
　強い言葉で引き止めている訳じゃないのに、つい足が止まってしまう長官の威圧ある声。
　それは神田も同じだったのか、足を止めて私の腕を掴んだまま顔だけ振り向いた。


「そうは見えなかったがな」


　鋭い目は射抜くようにルベリエ長官を睨み付ける。
　長く感じる沈黙は一瞬で、先に視線を外したのは神田だった。