My important place【D.Gray-man】
第22章 金烏.
あの人に会いたい。
その気持ちはこの9年間、一度も薄れたことはない。
だがアルマへの潰したはずの思いも、泥のような心の奥底に沈んだまま…消えるはずもない。
「……」
奥底に沈めていた気持ちが、僅かに浮上してきたからか。いつの間にか足はその場で止まっていた。
ひらりと、俺の視界の端を舞い落ちていく蓮華の花弁。
『久しぶりだね、アレンとの任務』
思い出したのは、その中で前を見据えて歩く月城の姿だった。
教団の廊下の中で、司令室に向かいながら何気なく任務のことを口にする。
特別、大事な話をしていた訳でもない。
なのになんで思い出したのか。
「……」
あいつの傍にいると、不思議とこの幻の花は気にならなくなる。
9年間付き合ってきたものだから、別に普段の生活の上で花が見えようが支障なんてない。
それでもこの花弁が舞う視界が唯一クリアに広がるのは、あいつが傍にいる時だけだった。
──傍にいたい。
それは自然と浮上した思いだった。
あいつの隣は何故か落ち着く。
泥から沸き上がったようなこの今の気持ちも、きっとあいつの前でなら──
「ガァアッ!」
思考を止めたのは、舞い落ちる花弁の隙間を一直線に飛んできたゴーレムだった。
「お前…モヤシの」
金色の光沢を持つそいつはモヤシが連れているゴーレム、ティムキャンピー。
勢いよく突っ込んできたそいつは、どこか焦るように俺の周りを飛ぶ。
ふと気付く。
最後に見たのは、月城の頭の上に乗った姿だった。
「月城はどうした」
一緒に何処かに向かったはずだが、もう別れでもしたのか。傍に月城の姿は見当たらない。
問いかけてもゴーレムは言葉を発しないから、答えを知る術はない。
だがそいつは俺の服をその口に咥えると、ぐいと強く引っ張ってきた。
「っなんだよ、」
風呂場の前で月城を催促していたのと、同じだ。
何処か連れて行きたい場所でもあんのか。