第21章 玉兎.

　じっとりと掌に脂汗が滲む。
　細く鋭い目が一部の隙も見逃さないというように、じっと私を見下ろす。

　まるで蛇に睨まれた蛙のように、足はその場から動かなくなった。

　くいくいと、ティムが焦るように私の髪を引く。
　だけど私はその場から動けないまま。


「もう一度、お尋ねします」


　真っ直ぐに見下ろしてくるルベリエ長官から、目が逸らせない。


「一体、何を隠している？」


　握った拳の中で汗が滲む。
　ひゅっと、微かに音を立てて息を呑む。

　何もないと言えばいい。
　だってバレてないはずだから。
　私のこの額の十字傷のことを知っているのは、神田だけ。
　それも前に、まだ一つしかなかったその傷跡を一度見せたきり。

　誰も何も知らないはず。
　この人だって。


「…何も隠してなんか、いません」


　俯いて、そう応える。
　鋭い目に視線を合わせて応えることはできなかった。
　その目を見ていると、心の奥底を見破られてしまいそうな気がしたから。


「ならばきちんと顔を上げて言いなさい」


　まるでそんな私を見透かしたかのように、ぴしゃりと促される。


「それではまるで罪人のようですよ」


　…そうだ。言わないと。
　ちゃんと顔を上げて、何もないと。
　じゃなきゃ疑われるだけだ。


「……」


　汗の滲む拳を、強く握り締める。
　恐る恐る顔を上げる。
　見えたのは、真っ直ぐに鋭い眼孔を向けてくるルベリエ長官の姿。
　その目は無機質に私を見下ろしていて、まるで──…本当に罪人か何かを見ているような目だった。

　──あ。





『残念ながら、君に素質はないようだ』





　この目、あの時の目に似てる。
　そう悟ると口は言葉を吐き出せなくなった。

　要らないと私を見限った、大人達の冷たい目。
　それにこの人の目は似ている。
　きっとこの人にとっても、いちファインダーのことなど、どうでもいい存在なんだろう。
　エクソシストのように、特別な存在じゃないから。
　代わりなんて幾らでも利く。