My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
他人に迷惑を掛けては駄目。
育った小母さんの元で、そういう躾は強くされてきたから。自分から話しかけたり近付いたりはせず、促されることには大人しく全部従うようにした。
ただ体に残っていた怪我の手当てだけは、他人の手を借りずに全部自分で行った。
他人に体を触られるのが怖かったこともあるけれど、余計な面倒も掛けては駄目だと思ったから。
それが結果的に良く映ったのか、手間の掛からない私にクロス元帥は助かるとばかりに安堵していた。
『初めは生意気なガキだと思ったが、随分できたガキだったんだな。お前』
『…ガキってよばないで』
『お前がおじさん呼びをやめたら考えてやるよ』
ただ、どんなふうに接したらいいのか。他人との上手い付き合い方なんて学んでこなかったから。
まして元帥みたいな性格の人と今まで出会ったこともなくて。
今思えば随分と、目上の人に対して失礼な話し方をしていたと思う。
愛想も何もない、子供らしくもない生意気な態度。
子供の世話なんて苦手だろうに、そんな私の相手をしてくれた元帥は、できた大人だったと思う。
ただクロス元帥も、別につきっきりで傍にいてくれた訳じゃない。
ご飯や衣類を運んでくれたり、その際に体の調子を聞かれたりする程度。元帥という立場だったから、きっと忙しかったはず。
『じゃあな。暫く空けるから大人しくしてろよ』
そう言ってふらりと消えたかと思えば、何日も姿を見せないこともあった。
そんな時は言われた通りに、ただ大人しく帰りを待った。
迷惑を掛けては駄目。
面倒だと思われたら、きっと見捨てられる。
私には帰る場所がないから。
『…おとうさん、…おかあさん…』
待つのは慣れているから苦じゃない。
それに私の心の拠り所は、両親の記録だけ。
黒の教団は私にとって怖くて嫌な場所だったけど、同時に唯一縋れる場所でもあった。
此処で生きてみれば、私にもわかるかもしれない。
二人が何を思い、どう生きたのか。
ただただ、それが知りたかった。
元帥は他の人より気を許せるけど、ただそれだけの人。
私に食べ物と寝床をくれる、知らない大人。
そんな概念で接していた。