My important place【D.Gray-man】
第20章 If.
『お久しぶりです、クロス元帥』
『ああ、大きくなったな。女としての成長は、まだまだ足りんが』
『……元帥は微塵もお変わりなさそうで』
『はっはっは。それは褒め言葉として受け取っておいてやろう』
そんな簡単な言葉を交わしたくらいで、元帥はまたそう長く身を置く間もなく再び教団から姿を消した。
それから行方はぱったりとわからなくなって、次に戻ってきたのが、あの方舟事件の時だった。
方舟事件ではアレンの方舟を操れた問題が起きたり、中央庁からルベリエ長官が教団に訪れたりもして、色々とバタバタしていたこともあって元帥と会話らしい会話はできなかった。
……そして、元帥のこの消息不明事件が起きた。
「…ちゃんとお礼も、言ってない」
"ありがとう"って言葉じゃ足りないくらい、色々とお世話になったのに。
「もっと色々、話したかった」
元帥の生死は定かじゃないけど。
…こんなことになるなら、もっと言葉を交えておけばよかった。
「私、言葉にするのが下手だから。色々躊躇してたんだよね…馬鹿だなぁ」
後悔したって、後の祭り。
そんなこと、よくわかってたつもりなのに。
「…師匠がそれ聞いたら、きっと喜ぶと思いますよ」
「喜ぶ? なんで?」
溜息混じりに床に落としていた視線を上げれば、隣のアレンが同じく窓際の血痕を見つめていた。
「だってあの人、生粋の女性好きですから。雪さんみたいな人にそんなこと言われたら、絶対口説きにかかると思う。寧ろ話しかけなくて正解です」
「…そうかな」
「そうですよ! 大体、その規則を破ったのも何かしら雪さんに恩でも着せて、手中にする気だったかもしれません」
拳を握って力説するアレンに、その場の空気が思わず砕ける。
というか手中って。
それはないでしょ。
「あはは、まさか。いくら女性好きでも、私まだその時幼かったし。リナリーみたいな美少女ならまだしも」
私は生憎、そんな胸張れる容姿なんてしてないし。
あの地下で出会った時なんか、包帯だらけで身形もボロボロだった。
そんな子供を異性として見る方が無理な話だと思う。
大体異性として見てたら、布団に引き込んだり一緒の部屋で寝泊まりなんてしない。
…多分。