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My important place【D.Gray-man】

第20章 もしもの話



「アレン」

「はい」

「…私の母親ってね、サポーターとして教団で働いていたんだ。会ったことはないけれど」


 なんで急に、こんな身の上を話そうと思ったのか。
 アレンがクロス元帥と、関わりの深い人だったからなのか。
 わからないけど、気付いたら口にしていた。


「そんな母の情報を私に教えてくれたのが、クロス元帥だったの」

「師匠が?」

「うん。初めて会った時、私凄く生意気だったから。おじさん呼ばわりしたら、笑顔で駄目出しされて」

「師匠らしいですね」

「でも、優しい人だった」


 静かなティムキャンピーから、目の前の割れた窓ガラスに目を向ける。
 乾いた血痕は至る所に夥(おびただ)しく飛び散っていて、視界だけでも壮絶さを物語ってくる。


「教団で亡くなった人の情報は、厳密に管理されて外に漏洩させない。それは肉親相手であっても同じこと。そんな規則に背いてでも、元帥は私に母のことを教えてくれた。優しくなきゃできないと思う」


 血痕の跡を指先でなぞる。
 乾いたそれは私の指先に、何も残さない。
 それは元帥の存在が不確かなものになってしまったことを、示しているようにも見えた。


「…私にとって、元帥はこの教団で特別な人だったと思う」


 あの暗い地下で言葉を交わした後、正式にコムイ室長の元での入団が決まるまで、クロス元帥は何処にも行き場のない私の面倒を見てくれた。
 というか、見ざるを得なかったんだと思う。

 誰も周りを信用できなくなっていた私は、誰に対しても疑いの目しか向けられなくなっていた。
 それこそジジさんの言う通り、弱い小動物みたいに、誰に対しても情けなく怯えて警戒していた。

 唯一両親の情報を教えてくれて、あの地下から連れ出してくれた元帥だけは、他の人より多少は話すことができた。
 だからきっと元帥しか適役がいなかったんだろう。





『俺の性分じゃねぇんだよ、こういうの』





 地下の暗い部屋に比べれば随分と明るい部屋に連れて来られて、注意深く辺りを伺う幼い私を前に、深々と溜息をついた元帥のその言葉はよく憶えている。

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