My important place【D.Gray-man】
第19章 灯火
「お風呂、貸して頂きありがとうございました」
「いいさ、これくらい。あたしの弟が世話かけたしねぇ。お礼を言うのはこっちだよ」
急用で借りたマーチン宅。
家主のカーラ・マーチンに、月城が深々と頭を下げる。
AKUMAの血に塗れたマントを身に付けておくことはできず、代わりにその体にはモヤシが押し付けた団服用コートが着せられていた。
サイズの異なるコートを着込む姿は、いつも以上に小さく見える。
「馬車の手配できました。いつでも戻れます」
「ありがとう、キエさん。それじゃあカーラさん、お世話になりました」
「ああ。あんたらも気を付けて」
もう一度頭を下げる月城を皮切りに、マーチン宅を出る。
目の前を通り過ぎる月城の頭に、自然と目が向く。
そこには真新しい包帯が巻かれていた。
『AKUMAから逃げ回ってる時に、怪我してたみたいで』
風呂場から出てきた時には、既にその包帯は額を覆っていた。
苦笑混じりにそれだけ報告してきた月城は他に外傷はないらしく、心配するモヤシに大丈夫だと笑いかけていた。
「…チッ」
大量に浴びたAKUMAの血の所為で、月城のその怪我には気付かなかった。
そんな自分と、墓地での月城の態度に舌打ちする。
何がただの立ち眩みだ。
それだけじゃねぇだろうが。
「ごめんなさいね、雪ちゃん。私がもっと早く時間停止(タイムアウト)をしていれば…」
「そんなことないよ。ミランダさんがしっかり守ってくれたおかげで、イノセンスの確保ができたし。ベン・マーチンも成仏できたし。文句の付け所なんてなし」
しきりに心配する貧血女に、笑って話す月城は明るい。
監査野郎がチェスで勝利すると、ベン・マーチンの亡霊は指輪を残して塵となって消えた。
恐らく自分より強い相手に会って、勝負意欲は満たされたんだろう。
姉のカーラ・マーチンも事情を察してか、指輪を教団に確保されることに反発はしなかった。
条件さえクリアしてしまえば簡単なイノセンス捕獲任務だ。