My important place【D.Gray-man】
第3章 夢Ⅰ
一瞬、結界が間に合わなかったのか。脇腹に受けた熱い痛みは確かなものだった。
「つぅ…っ!」
ズグ、と急速に体に広がる嫌な熱。
まるで体を侵食されていくような感覚。
ああ、これなんだ。
AKUMAの弾を受けた人が、死ぬ間際に感じるものは。
「…おい?」
脇腹を押さえてうずくまったまま動かない私に、流石に異変を感じ取ったらしい、神田の声が耳に届く。
「お前まさか…」
「ごめ…ドジった…」
結界越しになんとかそう呟けば、神田はいつも以上に深い皺を眉間に寄せた。
うわ、怖いなぁその顔。
あんまり睨まないで欲しいんだけど。
AKUMAのウイルスを体内に入れた者は、数分も経たず死に至る。
死を迎え入れる心構えをするには、あまりにも短い。
だけど。
これでもし死んだら、私も親のように"記録"だけの存在になるのかなぁ、なんて他人事のように感じて。
「っ…ぅ…ッ」
それはなんだか嫌だな、とそう思った。
「おい、今すぐ結界を解け!」
そんな思いを掻き消したのは、神田の鋭い罵声。
解いてどうするの。
助かりなんてしないのに。
死ぬ間際まで、人使い荒いんだから。
「ッ…は…っ」
なんとか結界装置に解除コードを打ち込む。
結界が消えると同時に、肩を強く掴まれた。
そのままぐいっと強い力で仰向けに体の向きを変えられる。
見えたのは、私の体を支える神田の怖い顔。
「な、に…ッ」
ピキピキと体の血管が硬直していくような感覚。
視界が霞んでいく中で、神田が自分の手首を口元に持っていくのが見えた。
ガリッと歯を立てて、手首を伝ったのは薄い皮膚を裂いて滲んだ赤い雫。
何、してるんだろう。
「飲み込めッ」
端的にそれだけ吐いて、手首を私の口元に押し付けてくる。
何──
「ん、ぅ…っ」
口の中に、じわりと広がる鉄の味。
これ…神田の、血?
その行為の意味がわからず、それでも熱さで麻痺した体は抗うこともできずに。
こくりと、流されるままにその血を嚥下した。
──…ドクン、
刹那。
「っ、あ…ッ?」
体の奥底から、何かが湧き上がるような。
そんな衝動が全体を襲った。