My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
ぱちり、ぱちりと空気が弾ける。
小さな線香花火のように、雪を中心に弾ける光の閃光を目に、シェリルは動きを止めた。
「あれはなんだい?ラースラの力が凝縮しているのは感じるけど、何か…」
(不穏な空気も感じる)
一体それがなんなのか。
答えを出せずにいるシェリルの足元で、トクサは痛みに耐えながら顔を上げた。
ぱちぱちと火花を散らしているのは、雪の首元を中心に。
そこには雪をノアの力を封じる枷がある。
「君は知っているのかい?ラースラのあれ」
「っ…」
「聞いているんだけれど」
「ぐぁ…!」
折られた足首の骨を更に、ぐしゃりと靴の底で砕かれる。
呻くトクサの悲鳴に反応したのは、雪の方だった。
ぶわりと膨張した空気の圧がシェリルの肌にぶつかる。
びりびりと痛い程に感じるそれは、確かに怒のノアの持つエネルギー体だ。
しかしそれだけではない。
肌を差す嫌な気配は、シェリルの奥底のノアメモリーに染み付いた感覚。
「これは───」
「…やめ…て…ひどいこと、しな…で…」
ばちばちと強い火花が散る。
まるで反発し合うように、雪の中から溢れるエネルギーと首輪の十字架が衝突し合っている。
それでも溢れ出してしまうノアの力が、雪に呼応するかのように威圧を飛ばした。
「なんて…姿だ」
暗い瞳の奥に金色の光を宿しながら、肌は東洋人の持つ肌色のまま。
風圧で靡く髪の下の額には、残像のように振れる聖痕が見え隠れしている。
その様は、長年生きてきたシェリルも一度も見たことがなかった。
人間でもなく、ノアでもない。
半端な姿を置き去りに、力だけが制御できずに暴れている。
「あの首輪はイノセンスか…なんて酷いことをッあんな猛毒の塊のようなものを身に付けさせるなんて、正気かい!?」
「人の…腕を抉った貴方が…何を言いますか…」
「もう一本の腕も失いたくなければ、あれを外せ。今すぐに」
「ご冗談を…死んだって外しません」
息も絶え絶えながら、トクサの目は死んではいない。
殺気立つシェリルに胸倉を掴まれながらも臆さない様子から、一筋縄ではいかないだろう。