My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「今宵も素晴らしい宴ですな、伯爵殿」
「料理も音楽も美術品も一級品ばかりだ」
「いやいや。こうして足を運んで下さる皆様のお陰ですよ。でなければこの舞踏会も、あのシャンデリアのようなものだ」
「はて。シャンデリア、とは?」
「見た目は着飾り大層派手だが、中を覗けば空洞。中身のないもの、ということですよ」
「おお、成程」
「流石、伯爵殿!例えも高貴でありますな!」
「……ふあ(どこが高貴なんだろ…)」
上品に笑いながら会話を続ける貴族達を目の端に、アレンは退屈混じりの欠伸を洩らした。
「疲れちゃった?」
「あ、ごめんなさい」
「ふふ、いいよ気にしないで。私も肩が凝ってきちゃったし」
ひょこりと隣から覗き込むリナリーに、はっとし頭を切り替える。
此処は街一番の有名な伯爵の舞踏会。
そして自分は、彼女をエスコートしている身だ。
「やっぱり慣れないことをすると、疲れるよね」
「と言うより…あっちの方が疲れないのかなって」
「リッチモンド伯爵?」
「貴族の皆さんですよ。さっきから聞いていれば、ひたすらお世辞の言い合いじゃないですか。皆して伯爵を持ち上げて、楽しいのかなって」
「どうなんだろうね。貴族の世界なんてよく知らないけれど、伯爵が凄い人なのは確かみたいだし。皆、何かしらあやかりたいんじゃない?」
「…大変ですねぇ…」
興味のない目を尚更平らにして、アレンはつまらなそうな顔をした。
在り来りな世辞の中心にいるリッチモンドを、じっと付かず離れず観察し続けるのは地味に骨が折れる。
しかしそれが今回の任務で、アレンとリナリーに課せられた役割だ。
文句など言っていられない。