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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



「皆しっかりして…!」

「ぅ…あ…」

「? どうしたのっ?」

「あ、ああ、ぅ…ッ」

「何…っ」



強く腕を引いていた青年が、突如体を震わせ始めた。
何事かと顔を覗き込めば、反応を示さなかった手が逆に雪の腕を掴んでくる。
ぶるぶると震える体に、荒い息遣い。
明らかに"何か"を盛られているような様子だった。



「(まさか大麻とかの類じゃ…)…っ来て、早く…!」



青年の腕を肩に回して支えるように担ぎ上げる。
雪が踏み出せば、よろけながらも青年も一歩踏み出した。



「よし…!貴女はついて来れるよね?」



先に檻の中を出ていた女性に問い掛ければ、覚束無くも頷かれる。



「ついて来て。とにかく今は時間がない。全員は無理だから、二人だけ逃がす」



これだけ明らかに異常な症状を示している青年を連れ出せば、周りも状況を理解するだろう。
しかし急かす雪の足を止めたのは、ジャラリと擦れる鉄の音だった。
見れば青年の足枷も女性の足枷も、此処にいる捕虜全員の足枷の鎖は一つに溶接されている。
一人が単独で逃げ出さないように考えられた鎖なのだろう。



「っ…待ってて、足枷も外すから」



つい出そうになった舌打ちを呑み込む。
急いで青年をその場に下ろすと、雪は錠に差し込んだままの鍵束へと手を伸ばした。



「…?」



ぴたりと歩みが止まる。



「う、ぐ…ぐ…」



否、歩みは止められた。

振り返れば、鼻と口から血を流し呻きながらも雪の足に縋り付く警備の男の姿が見えた。
タッパはあるが、瀕死のその様子では足止めにもならない。
しかし雪の目はそこに釘付けのまま動かなかった。



「逃がす、か…」



縋る男の手が、力なくずるりと床に落ちる。
しかし掴んでいた雪の足には、ブーツの上から鋭い刃物が突き刺さっていた。

痛みは然程ない。
だからすぐには気付かなかった。



「っ」



刺さっていたのは、注射器の形をした異物だった。

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