My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に.
ひらりと、もう一枚。薄く色付いた花弁が、月城の肩に舞い落ちる。
つい視線で追う。
月城は花弁には気付かないまま、俺の隣で歩幅を合わせて歩き続けている。
『見てみたいな、一面に咲き誇ってるところ』
数日前に、月城と訪れた花畑。
其処で蓮華の花を前に、そうこいつが口にした時は驚いた。
その言葉は朧気な記憶の中のあの人が、確かに口にした言葉だったからだ。
幾重も咲いた蓮華の花に囲まれて、その真ん中であの人は淡く微笑んでいた。
俺の記憶に残る、唯一のあの人のはっきりとした顔。
それと月城が一瞬重なった。
重なった姿に息を呑んで、何も反応できなかった。
あの人に会いたいと思う気持ちが、溢れ出そうになって。そんな月城から目が離せなかった。
『食べ頃なんだよ。あの茎』
なのに次にこいつの口から出てきたのは、呆れるくらい拍子抜けする言葉だった。
味付けがどうだこうだ、思い出すように口にする。
その姿に一気に現実に引き戻された。
俺の目にしか映らない、幻の花。
それに囲まれて、どう蓮華の茎が美味いかと話す月城の姿。
それはどう見たってあの人とは重ならず、マヌケにも見えるその姿に思わず吹き出した。
可笑しくて、同時に不思議と安堵した。
月城は月城。こいつは、あの人じゃない。
俺の記憶が焦がれて止まないのはあの人だけど、俺のこいつに向いた気持ちは、こいつがあの人に似通ってるからじゃない。
月城だからだと、きっとそう思えたからだ。
「…神田? 何…じっと見て」
無言で見てしまっていたらしい。
月城の怪訝な目がもう一度、問いかけてくる。
居心地悪そうに、というより気恥ずかしそうに。
こいつは俺と目が合うと、顔を青くしたり視線を逸らしたり、今まではそういう反応が多かった。
あまり見たことがない、その月城の反応が見られたからか。
「……」
無意識に伸びた手は、その頬に触れていた。