My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
花の香り立つ中庭。
眼下には丁寧に手入れされた花園が、隙間なく広がっている。
青々とした葉にぽつぽつと浮かんでいるのは、可愛らしい花弁を広げたアネモネ達。
その鮮やかな赤味と同様に、赤味の強い紅茶に波紋を広げながら、男は一口咥内に含んだ。
穏やかな心で紅茶の味を認めるなど、ここ最近はなかった。
こういうのも偶には悪くないと、腰掛けた庭園の椅子に深く身を預ける。
「次。彼女の名はローズ。その紅茶と同じ名だね、良い趣味してる」
「………」
ただ一つ、目の前で意気揚々と声を掛けてくる者がいなければ、と。
数秒も経たずに男の眉間には僅かばかり皺が刻まれてしまった。
「父親は実業家で成り上がりの貴族だけれど、質は良い人間だと僕は思ってるよ。娘も然り、だ。どうだい?」
細かな装飾の施された、中庭用の椅子に机。
その向かいで同様に椅子に腰掛け、にこにこと始終笑顔を浮かべて問い掛けてくるは爬虫類顔の男性。
男は持っていた紅茶を皿に置くと、深々と溜息をついた。
「興味ない」
向けたのは、ばっさりと切り落とすような一言。
「ええ~っこの娘も駄目?可愛い顔してると思うんだけどなぁ…ティッキーの趣味じゃない?」
「だから、興味ない」
再度溜息をつく男の名は、ティキ・ミック卿。
癖ある黒髪の下は、左目に泣き黒子を添えた麗色感じられる顔立ちをしている。
対して次々と写真を吟味しては差し出している長い黒髪の男性は、シェリル・キャメロット大臣。
ティキと同じ切れ目の持ち主だが、どことなく爬虫類を思わせる貌容の彼は、この豪邸の主でありティキの義兄である。
「クスクス。今のティッキーに何言ったって無駄だよぉ、お父様」
二人の空気に舞い込むように、シェリルの膝の上で可憐に笑う少女はロード・キャメロット女子。
ぱちりと大きな猫目に、少女にしては珍しいツンと跳ねた短髪。
シェリルの養子として此処で暮らす娘であった。