My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「……………はぁあ」
長い沈黙の後、つい零れたのは深々とした溜息だった。
雪から顔を逸らして。
「お前って……はぁ」
「な…何」
その後もう一度目を向けて声を掛けようとしたが、また余所へと顔は向いてしまった。
真っ直ぐに雪へと顔を向けられない。
何か言葉を成そうとすれば、形にならない思いが喉元を通る。
「呆れ通り越して感心する」
「呆れって…」
「んで感心通り越して馬鹿だな」
「んなっ」
胸がざわつく。
心が騒ぐ。
こいつに向けた俺の感情が、溢れてしまいそうな気がした。
「泣きそうな顔も泣く姿もガキみたいな癖して、なんでそういう所は頑固に大人振るんだよ。お前は」
「べ…別に、そんな意識してない、けど…」
「知ってる」
俺の馬鹿発言に、ベッドから勢いで腰を浮かせた雪へと手を伸ばす。
一人分くらいの距離じゃ簡単に触れられる。
だけど触れなかった。
「お前、本当に欲しいもんにはそう手を伸ばさないだろ」
「…?」
「軽い思いなら簡単に出す癖に、大事な思いは奥にしまい込む。簡単に口に出せない奴だってことは知ってる。だから待つとも言った。………でも事の重大さを考えろよ」
白い膝の上に置かれている、小さな雪の手。
その上に翳した自分の手を握り締めた。
…触れられない。
「命の危険まで感じたんなら、助けの一つくらい求めろ」
胸がざわめく。
心が唸る。
焦燥感のようなもんに駆られて、喉の奥が乾いて張り付くような不快感に陥った。
「馬鹿が」
ギリ、と歯を食い縛る。