My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「っ…私、も…好き…」
濁った暗い眼に映る、小さな反射。
薄く感情の膜を貼ったそこに、ゴーレムの光が入り込んで艶やかに映る。
ゆらりと、微かな光の反射が揺らめいた。
つっかえながら吐き出すように漏れた、雪の震えた声と同じように。
濁っていたはずの眼球の奥から滲み出てきたのは、艶やかな雫だった。
「ユウのこと…誰よりも好き…っ他は何も要らないから…」
音もなく溢れて、雪の眼を濡らしていく。
湧き出る泉のように、それは鬱々としていた目元の縁に溜まった。
支え切れなくなった雫が、ぽろりと重力に従って肌を滑る。
「ユウを、全部私にくれる、なら」
ぽろぽろと、そんな音が生まれそうなくらいに、それは次々と溢れ出た。
「だから、お願…っ…傍に…いて」
雪の涙。
「エクソシストも、ノアも、関係ないから…っ私の傍に、いて。手を握って、て」
次々と零れ落ちていく雫は止まることなく、雪の顔を濡らしていく。
光で反射して大粒の真珠みたいに煌めいて。
不覚にも、綺麗だと思ってしまった。
息を呑む。
言葉が出てこない。
目の前の泣き出した雪から、目が逸らせない。
「ひとり、怖…くて…っこのまま死ぬのかなって、思っ…それ、怖…て…ッ」
何度もつっかえながら涙と同じに溢れ出る情けない声は、雪の飾り気のない本音だった。
ひとりが怖い。
死ぬのが怖い。
人なら当たり前に持っておかしくない感情だろう。
けれど俺は、こうして雪の口から聞いたことなんて一度もなかった。
こいつが時々見せる幼い子供みたいな姿は、いつも大人びた表情で取り囲われていた。
無理に背伸びしているような表情じゃない。
笑ったり怒ったり、感情も見せる自然な表情だから、今までその内面に中々気付けずにいた。
大人だって持ってるもんだ…ガキみたいに泣き叫びたくなる気持ちは。
きっとそれは出すか出さないかが問題じゃない。
出せる相手がいるのかどうかが問題なんだと思う。
そして、雪にとってのその存在は──
「生きたい…ッユウと一緒、に…生きて、たい…っ私、ユ…っじゃな、きゃ…っ」
俺だ。