My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
いつも目深に被ってるフードの所為で、顔は薄暗く血色も悪く映る
俺と似ているようで違う、真っ暗な瞳には何も宿していない
俺を目の前にしていても、俺を見てはいない
そいつのその顔が、目が
見る度に何故か無性に苛立った
『…暑…』
『っせぇな…黙ってろ。益々暑くなるだろーが』
『……』
『うるせぇつってんだろ』
『何も言ってないけど』
『目が言ってんだよ。うぜぇ』
まだ数回しか及んでいない雪との任務
ネバダとかいう空気がぱさぱさに乾燥した都市
乾いた風が強く肌を打ち、髪を散らしていく
そんな都市で雪と二人だけ
相変わらず会話らしい会話をしても、まともに俺を見てきやしない
それでも悪態を突けば、不満そうな面を向けてくる
こいつはそうだ
いつも"無"みたいな顔してるが、負の思いを抱くと感情らしい感情を見せてくる
その時だけはまともな人間みたいになる
気付けばよく悪態を突いていたのは、その所為か
『ぴかぴかしてる…なんだろ、あれ』
『俺が知るかよ』
『…もしかして、あれがティエドール元帥が言ってた、大人が夢見る場所なのかな』
目が痛くなるくらい、ちかちかと喧しい光の数々
そんな照明で飾られた馬鹿でかい建物を見上げる雪は、いつもは俺に見せてこない別の感情を顔に浮かべていた
それはティエドール元帥の前で一瞬見せたものと同じ
興味を示した顔だ
"夢って、お金を出せば見られるものなんですか"
そう呟いた雪の顔は、興味があるようで虚ろに見えて
初めて見た、一度も見たことのない表情に何故だか苛立った
ずっと"無"でいた雪の表情に対する苛立ちとは何か違う
もやつくような思い
理由なんてわからない
ただもやもやと形の曖昧な感情が、俺の心を覆っていた
弱い奴は嫌いだ
虚ろなその表情が、俺の癪に障っただけなのかもしれない