My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ.
「…座って待ってろ」
顔は険しいまま、神田は徐に向かいの椅子から立ち上がった。
かと思えば、向かったのは医務室に置いてある冷蔵庫。
「冷たっ」
腫れた頬に押し付けられたのは、冷えた保冷剤。
「とりあえずそれ押し付けてろ」
「あ…はい」
思いもかけない行動に、ただただ呆然と従う。
なんか神田らしくないというか…私の知らない、神田の姿を見たというか。
…でも。
「…ぃた、」
両手は怪我してるから、保冷剤を押さえる手が僅かに痛む。
そんな私の姿に、神田は鬱陶しそうに視線を寄越した。
…だから怖いんですって。
手当てしてくれるのは嬉しいけど、その怖い顔はやめて下さい。
「……あの、」
「なんだよ」
病棟の暗い廊下を神田と二人、並んで歩く。
医務室で足の手当てもして、ついでに看護師さん用の靴も見つけたから丁重にお借りした。
結果、足は負担なく歩けるようになった。
ただ、
「……神田って、割と不器用?」
「テメ…次はやらねぇぞ」
私の両手には、ぐるぐると歪に分厚く巻かれた包帯。
腫れた頬には大きな湿布が貼られていて、更にその上から保冷剤を押し当てる形で布で巻いて頬に固定されている。
まるで大きな虫歯でもできた人みたい。
「ごめんごめんっ大丈夫、ありがとう」
ギロリと睨んでくる目はそんなに怖くない。
怖くないというか、私が気にしてないみたいだった。
多分それ以上に、嬉しい気持ちが勝ってるからかもしれない。
思わず漏れた笑顔のままに首を横に振れば、神田はそれ以上睨み付けてはこなかった。
こういうこと、きっとやり慣れてないんだろうな。
歪で、どこか粗雑な。
それでも確かに、それは"優しさ"だった。