My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ
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「おい」
「はい」
「テメェ、昨日言ったよな。俺に」
「…はい」
「これのどこが体力尽きてる人間の姿なんだよ」
眉間に皺を寄せて、神田が指差す先。
それは外の出入り口に続く大廊下だった。
廊下の端の大きな柱からではなく、今回は二階から見下ろす形で距離を取って状況を見守っているのは、昨日より危険だったから。
「ユーくーん。何処にいるんだーい」
昨日より多少は減ったものの、変わらず複数のゾンビ化人間が徘徊している中。唯一言葉を発して歩き回っているのは、神田の所属する部隊の一番偉い人。
フロワ・ティエドール元帥。
「ほら、元帥は私達より体力あるからっ。一日二日、平気なんだよ、きっと。うん、きっと」
「……」
「すみません」
取り繕っても、神田の眉間の皺は増えるだけ。
言い訳もそこそこに早々謝ることにした。
ごめんなさい、本当に。
「で、でも、昨日よりゾンビ化した人の数は減ってるしっ。ティエドール元帥さえこの場から離れてくれれば、脱出できるかもしれないよ」
元の体に戻った今の神田なら、六幻がなくても一般団員だけならきっと一掃できる。
私自身、体を張ってその腕っ節は理解しています。はい。
「…チッ」
慌てて付け足せば神田も納得してくれたのか、二階の廊下の壁に背を預けて座り込んだ。
腕組みして目を瞑る様は、任務の時に見るものと同じ待機の姿勢だ。
どうやら待ってくれる、のかな。
それに習って、私も一人分距離を置いて隣に座り込む。
そのまま神田に特に話しかけることもなく、じっと自分の両手を見つめた。
歪に巻かれた白い包帯。
その下には、真っ赤に染まった自分の両手がある。
…神田はきっと気付いた。
というか気付かない方がおかしい。
あんなにはっきり、あの子は口にしたから。
「神に選ばれた人」。
イノセンス適合者。
神の使徒。
すなわち、エクソシストのこと。
「神に選ばれなかった人」。
イノセンス不適合者。
すなわち、咎落ちしたあの子や私のこと。