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My important place【D.Gray-man】

第42章 因果律



 腕を握る神田の力は痛い程ではないが強く、離れそうにない。
 硬直して微動だにできないでいるが、それでも気配はわかる。
 肌に感じる視線に、雪は息を殺した。
 きっとその黒曜石のような目は、真っ直ぐ自分に向けられている。


「……」


 雪が感じる気配の通り。青白い顔で俯く雪を、じっと神田は見下ろしていた。
 まるで触れられていることを恐れているかのように、体を強張らせている雪の姿に微かに眉間に力が入る。

 気付けば口が開いていた。


「神田くん」


 しかしその口が何か言葉を発する前に、遮るように静かに響いたのはコムイの声。


「雪くんのことは後は別の者に任せるから。ありがとう」


 ノアである雪との接触は禁じられている。
 コムイの言葉の裏の意味に、つい舌打ちをしそうになって神田は咄嗟に口を結んだ。
 やがてその手を雪から離す。


「…っ」


 静かに遠ざかる神田の気配。
 それを感じ取った雪の中に浮かんだのは、恐怖だった。

 敵として拘束されることに目の前が揺らぐ程の恐怖を感じるのに、彼が離れていくことにも恐怖を感じる。
 傍にいると上手く体は動かせないのに、触れていたいと感じる。

 相反する二つの思い。
 混ざり合わない二つの思いを胸の内で抱えて、強く目を閉じた。

 彼に縋りたい。でも縋れない。
 名を呼びたい。でも呼べない。


(……一緒、だ)


 あの時と。

 いつ、何処で見た景色なのか。よくはわからなかったけれど、漠然と確信はあった。
 置いていかないで、と呟いた声はいつも闇に呑まれて消える。
 誰も拾ってはくれない。

 俯いた雪の目は閉じられたまま。真っ暗に遮られる視界。
 前も後ろも右も左も上も下もわからない。
 何も見えない世界に一人。





 そこが、終着点。

















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