My important place【D.Gray-man】
第10章 夢Ⅲ
「…なんで」
思わず足が止まる。
ぽつんとその窓に一つだけ付いているのは、確かに私の服の背中に付いたものと同じだった。
血のように付いた人の手のような跡。
その周りには血痕の跡なんて見当たらず、その手形自体も、まるで今し方付いたかのように、べったりと濡れた血を付着させていた。
驚き見開いた目は血の跡から離すことができずに、恐る恐る歩み寄る。
よくよく見れば、手形は大人のものより少し小さく見えた。
…子供の手?
この黒の教団に子供はいない。
ブックマン辺りの、小柄な人物の手形だと思えば説明はつく。
でも。
「これ…」
そっと血の跡に触れる。
なぞった指先には何もつかない。
当然だった。
だって、これ。
窓の外から付着している跡だから。
「──っ」
此処は地上から何階も上に設置された窓。
そんな高い場所で、外から手形を付けることなんて不可能だ。
一体、誰が。
──バンッ
二度目の音は、すぐ傍から。
反射的に振り返る。
音がしたであろう、方角を見ればさっきまではなかったはずの窓に、新たな赤い手の跡が付着していた。
「…っ!」
一気に全身に鳥肌が立つ。
途端、体は弾けるようにその場から駆け出していた。
──バンッ
もう一度、音がする。
──バンッ
もう一度。
──バンッバンッバンッバンッ
何度も何度も窓を叩き付ける音。
振り返らなくてもわかった。
音は一定の距離で、走る私の耳に届いていたから。
追い掛けてきてる。
「っ…は…ッ!」
逃げないと。
何処かに。
捕まったら駄目だ。
何がどうしたら、形のない音に捕まるのか。
そんな原理を考える余裕もなく、咄嗟に近くの病室へと体は転がり込んでいた。
「っ、は…っはぁ…っ!」
ぴしゃりとドアを締めて、手で強く押さえる。
びっしょりと体全体に冷や汗が浮かんでいて、大して走ってもないのに息は大きく乱れていた。
音は、いつの間にか止んでいた。