第1章 あの発言。
「俺の名はただみじゃない。」
烏間はきっぱり言い放つ。
「だ、妥協してもいいんじゃない、ね?からすまぁ」
「じゃあ家に入るな。」
イリーナは頬をぷくっと膨らまし涙目で烏間を睨んだ。
また赤信号に捕まる。
烏間がイリーナをじっと見た。
(な、これはさっき私を見た目。烏間は何を見てるの...)
「教師をしている時もそうだがイリーナ、お前は顔に出すぎだ。」
(ええええ!?もしかして考えが透けてるの!?)
あたふたするイリーナの頭に烏間は左手をぽんと乗せた。
「今回の件は意地悪しすぎた。言えないだろうとわかっていて出した条件だ。
すまん。それにこれから一緒に住むんだ。条件がある方がおかしいだろう。」
それから左右にイリーナの髪を撫で烏間にしては珍しく微笑んだ。
イリーナは烏間の手を掴み、赤い顔を隠すために俯いた。
「た、だおみ?」
イリーナは緊張して声が震える。
そっと視線を上げると烏丸はもう前を見ていた。
(何なのよ、この男は!)
するっと左手がイリーナから離れ、烏間は肘で口元を隠した。
「無理して呼ばなくていい。みよじで呼んでくれ。」
籠って聞こえにくいがイリーナにはそう聞こえた。
(呼べって言ったり呼ぶなってなんなのよ!)
きっと睨むと外灯で照らされた烏間の顔が僅かに赤い。
「え?」
「なんだ。」
冷静を装う烏間の声も震えていた。
イリーナはぼふっとシートに座り直す。
「からすまぁ!四月から覚悟しなさいよ?」
烏間の弱みを握った気になりイリーナは満足げだ。
「ああ。」
イリーナがまたよからぬことを考えているなと烏間はため息混じりに答える。
先が思いやられるという顔をしながらも何処か楽しそうな烏間なのだった。
終わり。