第1章 あの発言。
「んーもぅ!からすまぁ。女のエスコートくらいまともにできないの?」
レストランのワインに酔ったイリーナが烏間の後ろをふらふらとついてくる。
「俺のエスコート有無の問題じゃないだろう。お前はもう少しまともにできないのか。」
振り向きもせず厳しい口調でイリーナを叱りつける。
足を止める様子すらない。
「チッ。これだから堅物は嫌ね。」
「聞こえてるぞ。」
烏間の思いもよらない言葉にイリーナは驚く。
「んな!?それで止まらないとかどういう神経してんのよ!」
イリーナは頬を膨らませ高級ホテルの大理石を思い切りヒールで蹴る。
そこからビロードの上を数歩歩いたところでイリーナが誰かとぶつかった。
「たっ...。すいません、酔ってしまっていて。許して下さる?」
イリーナは困った様に指を唇に当て、男の視線を胸に集中させる。
(こいつにはこの程度で十分ね。)
「あ?なんだなんだ。いい体してんじゃねえか。」
男はイリーナの唇に当てた指を掴もうと伸ばす。
(何こいつしぶといわね。鏡って道具知らないのかしら。)
イリーナは左側に避け、男の後ろに回り込み、金色の拳銃を抜こうと小脇に抱えた
クラッチバッグに手を入れる。
(フン...ビビらすぐらいでいいわね。)
「イリーナ!」
烏間のファーストネーム呼びに思わず目を見開き振り返った。
先ほど蹴った大理石のせいでヒールにヒビが入っていたのかイリーナはバランスを崩す。
それを包み込むように烏間は抱きとめた。
「っと...馬鹿か、お前は!」
ぶつかった原因に怒鳴りつけられたイリーナはムッとする。
「先に行ったのは烏間でしょ!?だいったいアンタが原因なんだからね!」
「俺は何もしてない。」
「そういうところだって言ってんのよ!」
烏間の胸板をポコポコとイリーナが殴る。
烏間はそれをとめる様子もなく、かと言って相手をする様子もなく呆れた目で見る。
「何よ、つれないんだから。」
イリーナはムスッとした表情のまま地面に落ちたクラッチバッグを拾い上げた。
「相手する必要性が感じられないからな。で、こいつはなんだ。」
指を指した方向には先ほどの男がいる。