第3章 月を見る者
「例えば私が月に帰ると言ったら、どうしますか?」
「…あ?」
ふと彼女が口にした言葉に思わず彼はゆっくりと視線を下ろし、考える素振りを見せた。彼女はれっきとした人間だ。と思うが、もしかしたらかぐや姫なのかもしれない。
そんな考えていると彼女が「まあ冗談だけど」とふわりと笑ってみせた。その冗談に笑いもせずに真面目な顔で答えると彼女は小さく「ごめん」と呟いてまた月を見始めた。
「満月の時だけ月を見るって、変だよね」
「新月をお前は見んのか」
「見ない」
「…まあ特別な日の時だけ見るっつーのもなんか変だけどな」
彼の言葉に思わず乾いた笑いをすると、彼は少々不満そうな顔をしてから近くにある団子に手を出した。
「…さっきお前が月に帰るならっていっただろ」
「うん」
「オレがもしオオカミ男で満月を見たらオオカミになるんだったらお前はどうするんだよ」
「えー…オオカミ男か…」
うーん…と少し悩む素振りを見せると彼はゆっくりと私の手に自身の手を重ねてきて、少し動揺してしまったがそれを顔に出さにようにと考える事に思考を集中させた。
「まあほら、例の映画みたいに愛し合おうじゃないか」
「あ、愛し…よく躊躇いなくそんな事言えんな!」
「え、あ、ああ」
今思うとすごい恥ずかしい事言ったな、とせっかく先程思考を集中させたというのに意味がなくなってしまった。顔が、熱い。
そんな私を見た彼はワシャワシャと私の頭を撫でて、その後にまた団子を食べた。
「…十五夜は団子を食べる日じゃなくてお供えする日なんだけど」
「いいんじゃね?固くなる前に食べたほうが美味いだろ」
「間違ってない」
「だろ?」
なんでこんなどうでもいい話をしてるんだろうと思いながら彼のベランダに飾られている団子とは別に置いておいた団子に手に持って1口食べた。
彼は手を止めずに食べていたのだが、ピタッとその手を止めてから「あー…」と自身の首を掻いた。
「この間黒子から教えてもらったんだけど…よ」
「うん」
「つ、月が綺麗です、ね」
「…バカ神」
「ああ!?」
「そんな遠まわしじゃなくて普通に言いなさい」
その後「私もだよ」と笑うと彼は顔を真っ赤にさせてから誤魔化すように手に持っている団子を口に入れた。