第1章 プロローグ
兄はちょっとした有名人だった。
背も声も人一倍大きくてどこにいても目立つし、さらにエースなものだから「ちょっと」というか、あるスポーツに関しては全国的に有名らしかった。
期待と不安を一身に背負う
梟谷エース、──その背中。
「俺に寄越せェェェ!!」
彼は、翔ぶ。
気の遠くなるような高い、高い、壁を越えて。誇らしげに、天高く。
兄が試合に出れば、スカウトが集まる。兄がボールを呼べば、誰もが彼に視線を送る。
兄のスパイクが決まれば敵も、味方も、会場の空気も、すべてが一瞬凍りついて、刹那。
それらはすべて、
──歓声に変わるのだ。