第38章 昔馴染みと月明かりー路地裏イチャイチャin自来也&綱手ー
丸い月が辺りを明るく照らしている。肌寒い秋の深更の、何もかもが寝付いたような静かな刻限。
影が真黒く落ちるほど明るいのに、この明るさは温みを持った陽の光のものとはまるで違う。冴え冴えと冷たく、ただ白々としている。月明かりに熱はない。ただ淡々と照らすだけ。
このうらぶれた路地裏さえも。
「こうして見ると何でも綺麗に見えるから不思議じゃのう」
傍らにしゃがみ込む綱手の、丸みを帯びた柔らかな背中を撫でてやりながら、自来也は常になくしんみり呟いた。
「月の明るいのは剣呑じゃなぁ。連れのゲロまでよう気にならんようになる」
「嫌みか、それは」
苦しげにえずいていた綱手が口許を拭って立ち上がる。
「おう。出すだけ出したか」
朗らかに聞く自来也に綱手は眉間に深い皺を寄せた。
「出なかった。最悪だ。出れば楽になるのにこれじゃあな。もう帰って水を呑んで寝る」
「何じゃ、もう帰るのか」
「もうって時間じゃないだろう。全くお前と呑むとこうなるから厭なんだ」
「呑み過ぎは誰のせいでもないお前のいつもの悪癖じゃろ」
「あぁ!?」
「あー、はいはい、わしが悪ぅございましたよ。いやぁ。シズネは大変だのぅ。たっぷり給料払ってやっとるか?若い美空でお前のお守りなんかせにゃならんのじゃ、可哀想に、老け込むのが早いじゃろうなぁ、アイツ」
「お前が心配していたと聞いたら、シズネのヤツ、腹を抱えて笑うだろう」
「そこは涙を流して感激するとこじゃねぇかのう…」
「ない」
「えー」
「えーじゃない。幾つになってそんな浮薄な声を出すか。若作りするな、気味の悪いヤツめ」
「何言っとんじゃ。若作りはお前の一大専売特許じゃねぇか。わはは」
「ほう。面白い事を言うじゃないか」
バキバキと綱手の指が鳴る。
「おいおい。そんな勢いよく鳴らして折れても知らんぞ」
自来也は懐手で頓着ない様子。
「自分で自分の指を折るような、そんな間抜けに見えるか、私が」
「いちいち目を吊り上げるなよ。折角上手に隠した皺が二倍返しで出て来るぞ」
「二倍返しがどんなものか味わってみるか、自来也?何なら三倍四倍の世界をオープンドアしてやるぞ」
バキバキバキ。
「まあそう怒るな。おっかねぇのぅ」
いきり立って足を踏み出した綱手は自来也の言葉に目を細めた。
「奢ってやるから五軒目に行こうぜ」