第5章 そんな優しい言葉は卑怯すぎる
ふと、桜の木が目に入る。
行きの道ではベポに腕を引かれ、全く気にも留めていなかった所為か、よく見渡して見れば街中満開の桜だらけだ。
「好きなのか?桜」
私の視線に気付いたトラファルガーは足を止めて私が見ている桜の木を見上げた。
好きかどうか聞かれたら、特別好きな訳では無いけど、だからと言って嫌いという訳でもなくて。
返答に悩んでいたら、彼の頭の上に幾つか桜の花弁が乗っている事に気付く。私は腕を伸ばし、それを無言で取ってあげた。
その行動に驚いたのか目を丸くする彼の顔は見ないフリをして、摘んだその花弁を見つめる。
「桜は儚いから、好きじゃないかも」
「…最期は散るからか?」
「えぇ、まるで命と同じね」
その散ってしまう姿も、儚くて美しいと人は言うだろうけど。私には悲しい記憶と重なって見えてしまって、虚しいだけだ。
「お前の頭にもついてる」
そう言ってトラファルガーも私の頭に腕を伸ばす。一瞬身構えてしまった私を見て、フッと鼻で笑った。
「その髪の色には似合わねェな」
「…そうね。藍と桃は真逆だから」
「なら、おれとお前は相見えるって事だな」
「…どういう意味?」
怪訝な目で見れば、彼は花のようにふわりと笑って。
「同じ藍色なら、混じり合うって事だ」
頭についた花弁を落としながら、その風貌には似合わない柔らかい手つきで私の頭を撫でた。
この人は、本当に私の嫌いな“海賊”なのだろうか。
【そんな優しい言葉は卑怯すぎる】