第2章 赤いゼラニウム
「二口、ナイスキー!」
俺のスパイクがコートに刺さり、部活終了の笛が鳴る。あぁ、今日も疲れた。体育館を二つに仕切るネットの向こう側では、女子バスケ部もちょうど練習を終えたようだった。
タオルで汗を拭いながらそこへ向かい、ネット越しにまゆを呼べば、汗で濡れた髪を揺らし、小走りで駆けてきた。
「今日はどうすんだよ?」
「んー、今日、シュートの調子悪かったから、少しだけ打ってから帰る」
「へいへい、りょーかい」
それだけ言うと、くるりと踵を返し、体育館から去り始めた部員たちの中から、赤葦を探す。
「あかあーし!」
俺よりも早く、とんでもなく大声で、うちのエースの木兎さんが赤葦を引き止めた。
「なんですか?」
「スパイク練付き合って!」
赤葦は、はぁ、とため息は吐くものの、ボールの準備していく。そんな赤葦に木兎さんは心底嬉しそうだ。
突然、振り向いた木兎さんと目が合ってしまった。マズイ。そーっと逸らしてみたものの、この人にはニュアンスとか雰囲気とかは全く伝わる事はないので、案の定、ガシッと肩を掴まれた。
「二口、ブロック飛んで」
赤葦と目が合った。二口、諦めろ。そういう顔だ。
「はいはい、わかりましたよ。その代わり、止められてもしょぼくれないでくださいよ」
「へん!そんな簡単に止めさせないぜー!ヘイ、赤葦!来い!」
全国で五本の指に入る木兎さんのスパイク練習の相手はなかなかにキツイ。上手くブロックに飛べたと思えば、フェイントで躱されたり、ブロックアウトを狙われたり。はたまた、見事ブロック出来たとなれば、当たった所はじんじん痺れる程の時もある。ましてや通常の部活が終わったあとだ。木兎さんを嫌味っぽくからかったものの、本当は必死でそのスパイクに喰らい付く。
木兎さんの気がすむ頃には、俺はいつも通り、へとへとだった。
三人で片付けをして、部室に戻る。まゆは少し前に切り上げたようで、体育館には俺ら三人だけだった。