第2章 読書
夏目漱石は"I love you"を"月が綺麗ですね"と言ったらしい。
「日本人は奥手で、ストレートに『愛しています』というのは恥ずかしいから、適当にロマンチックなこと言わせとけよ」といったところだろうか。
『でもさ、私は思うわけよ栄口くん』
「なにを?」
『"月が綺麗ですね"って言われてそれを"I love you"だって訳せる?私なら無理。ストレートに"愛してる"って言いなさいよって思う』
図書室の自習勉強スペースで、テスト勉強をする栄口くんの隣で私は、夏目漱石の吾輩は猫であるを読んでいた。
だからだろう。
彼の逸話をふと思い出したのは。
「まぁ、遠まわしな言い方は伝わらないよね」
『でしょ。本当に伝えたいなら私はどストレートに言うよ』
「らしいね」
クスクス笑う栄口くん。
その笑顔はとてもかわいい。
私は告白するなら真っすぐに言う。
栄口くんはきっと遠まわしな言い方には気が付かないから。
私の想いを受け取ってほしいから。
『好きだよ。大好き。愛してる』
「いきなり何言ってんの?」
『私はこうやって告白する』
「本当にストレートだね。いきなりいうからびっくりした」
『伝わってほしいもん。本人に。真っ直ぐな想いを受け取ってほしいから』
きっと私の想いはまだ伝わっていない。
だったら伝わるまで何度でも言うよ。
『好き。大好き。誰よりも愛してる』
「俺に言わないで、本当に好きな人にいいなよ」
困ったような、呆れたようなそんな笑み。
どうして自分のことだと思わないの。
私が好きなのは栄口くん以外いないんだよ。
早くそれに気が付け。
私は真剣に彼のことを見つめた。
彼はきょとんとした顔を渡しに向ける。
『好きだよ、愛してる。大好きだよ』
「………あ」
何度も伝えた私の想い。
やっと届いたのか、彼は顔を真っ赤にさせ口元を押さえる。
私はそれを見て口元を緩めた。