第8章 松虫草
俺だってわかっている。
俺とあの人じゃ、あの人の方が釣り合っているに決まっている。
だけど、仕方がないだろう。
好きになってしまったものは、どうすることもできない。
* * * * *
真選組には唯一の女隊士がいる。
。
彼女は、沖田さんには敵わないものの剣の達人でそこら辺の男は簡単に蹴散らす。
そんな彼女に俺、山崎退は惚れた。
惚れたからといってその恋がうまくいくかと言われればそれはNOだ。
ほら、今だって
「副長との奴お似合いだよな」「だよなー。のこと狙ってたけど、副長じゃ敵わねえや」「お前じゃ一生無理だから諦めろ」
そんな隊士の声が聞こえた。
そう、土方さんとさんはどこからどう見てもお似合いだ。
付き合っているわけではない。
でも、俺はわかる。
あの人たちは、両想いだっていうこと。
『山崎君』
「どうしたの、さん」
そんなある日、彼女にお茶を誘われた。
この上なく嬉しくて幸せだと思った。
彼女の笑顔がずっと俺に向いていればいいのに。
さんとお茶をして気分はすっかり舞い上がっていた。
それがいけなかったのか、俺が彼女のことを好きだということが隊士たちにバレた。
「切ない恋だねぇ、山崎」「あの二人付き合ってないけど、恋人っぽくみえるもんな」「つうか早く付き合えってな」「もお前より土方さんと付き合った方が倖せだって話だよ」
ゲラゲラ笑う隊士。
俺は奥歯を噛みしめた。
「だったら俺は"不幸"?」
「あ?」
俺は、外に飛び出した。
泣きそうになる顔を見られたくなかった。
「こっちの方が倖せだとか、こっちの方が不幸だとか、そんなこと天秤にかけて他人と比べて、優劣決めて楽しいのかよ!嬉しいかよ!!本気なんだよ!!本気で好きで、好きで……」
知ってるんだよ。
俺なんかより、副長の方が彼女のことを倖せにできるってことぐらい。
わかってるけど、でもだからって俺のこの気持ちはどうすることもできない。
簡単に捨てられるわけがない。
俺は、どうすればいい……?
俺の目の端で、一輪の松虫草が静かに揺れた。