第1章 ハロウィン
『Trick or treat!!』
ある晴れた昼休みの時間。
俺の所に、一人の女子生徒がやってきた。
満面の笑みで手を差し出すのは、同じクラスのさん。
「え?」
あまりに唐突過ぎて、何を言っているのかよくわからない。
二人の間に少しの間ができる。
『え、じゃないよ。今日はTrick or treatだよ?』
呆れたように彼女は腰に手を当て軽く息を吐いた。
咄嗟に「すまん」と謝ったが、その前にとりっくおあとりーとって何?
いつまでも黙りこくってる俺を見て、さんは
『今日はハロウィンなんですよ、夏目君』
「……うん?」
話が噛み合っていないと感じるのは気のせいだろうか。
とりあえず分かったような口調で相槌を打とうとするものの、どうしても語尾が半音上がってしまう。
それを知って知らずか彼女は続ける。
『だからね、Trick or treatなんだよ』
彼女の言っていることが本当にわからない。
そもそも、
「はろうぃんって何?」
彼女は目を大きく見開いた。
そして俺の境遇に気が付いたのか、はろうぃんについて教えてくれた。
『ハロウィンっていうのはね、海外のイベントでお化けやモンスターとか色々なコスプレをするんだよ』
「おい、ここは日本だぞ?」
『日本にも広がってきてるんだよ』
クスクスと笑うさん。
何も知らない俺に彼女は丁寧に説明する。
『で、Trick or treatって言うのは"お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ"っていう意味なの』
「それ、恐喝じゃん」
『それがハロウィンだと許されちゃうんだよねー。だから、ね?』
にんまり笑うさん。
そうか、彼女はお菓子をねだりに来たのか。
お菓子持っていたかな……。
俺はバックの中を漁る。
「あ、あった」
『え?』
「飴だけどいいかな?」
俺は彼女の掌にオレンジ味と書かれた飴を渡す。
これでいいんだと思い、彼女を見ると彼女は頬を膨らませていた。
え、お菓子あげたのにすごい不機嫌そう!
『悪戯できると思ったのに!』
お菓子目的じゃなかった!!
悪戯の方がメインだったのか。
「ど、どんな悪戯するつもりだったの?」
おそるおそる聞くと、彼女は悪戯っ子の様な笑みを浮かべ
『秘密!!』
と白い歯を見せた。