第7章 お月見
まんまるのお月様。
手を伸ばすが、届かない。
知ってた。
届くわけないよね。
『近藤さん』
私の隣でお酒を飲む近藤さんに声をかけた。
「ん?」とたった一言。
だけど、優しい声色に私は問う。
『死ぬまで一緒にいてくれますか?』
あまりに唐突な質問に近藤さんは声を失ったようだ。
少しだけ大きく目を見開く。
私は彼の方を見て、
『バカなこと言ってすみません』
困らせるようなことしたくなかったが、あんな質問をすれば誰だって困ることぐらいわかることだ。
でも本気でそう思った。
本気で近藤さんと一生一緒にいたいと思ったからだ。
近藤さんが好きだから。
好きだから死ぬまで一緒にいたい。
『月になりたい』
「……どうした、さっきから」
『私が死んだら、月見てください。私そこにいるので』
「随分不吉なこと言うな」
呆れたように近藤さんは笑う。
笑わないで。
私、不安なんだから。
いつ死ぬかわからなくて怖いんだよ。
近藤さんと離れたくないから、こんなアホみたいなこと本気で言っているんだよ。
『月に行ったら私すっごい高さでジャンプするから。月って重力ないでしょ。だからウサギみたいにぴょんぴょん跳ねて、近藤さんに伝えるから"私ここにいるよ"って、気づいてくれるまでものすっごく高いジャンプするから』
いつ死んでもいいように。
私は一方的な約束を近藤さんとした。
きっと私が不安がっていることが分かったのだろう。
近藤さんは私の頭に手を置いて髪の毛をくしゃくしゃにした。
「じゃあ俺が死んだときも、月見ろよ。俺すっげえジャンプするから。"俺はここだぜ"ってお前に伝えるから」
私の一方的な約束を、彼は嫌な顔一つしないで受け止めてくれた。
私は嬉しさと申し訳なさが入り混じった感情がこみあげて、涙を零す。
近藤さんはそれでも優しく笑っていて、傍にいてくれて、涙が止まらなくなる。
「だから今は、重力のあるこの地球で踵つけて一緒に死ぬまで歩こうぜ」
私はその言葉にこくりと頷いた。