第3章 おかえりなさい。
『ねぇ、』
「ん」
『わたしは、まだ、神田のとなりにいてもいい、の?』
「あたりまえだ」
そのためにも、戻ってきたのだから。
『ねぇ、』
「あ?」
『ほんとはね、…』
そう言ったまま 彼女は 口を閉ざしてしまった。ベッドで隣に座る マナを見やると、唇をきゅっと結んで、小さく震えていた。
「 マナ、」
『…… っ、なに』
「泣くな」
悪かった、と告げた、やっと、言えた。
『いいの、いいの…』
神田が無事なら、生きてたら…と 彼女は付け加えた。どれだけ欲がないんだか。
そもそも、あやふやな記憶をもとにして、しかも、女を探し続けてる自分に そっと 寄り添うことなど、かなり、相当ツラいことだろう。
よくやってたとおもうし、その分、こんな なり損ないの俺でも、そんな風に 好意を寄せていることが、嬉しく思う。
「もう、…カタ、つけてきたから」
『え…』
「今まで、待たせて、すまなかった」
彼女に目をやると、 マナのくちは ぽかりと あいていて、ときどき見える舌の赤が 艶かしい。
「なぁ マナ、」
今までごめん。
よく生きててくれた。
「お前のそばで、生きさせてくれないか」
やっと、やっと、
この世に生まれた気持ちだった。