第2章 水蜜桃の果実
「メリークリスマス!」
「…またお前か。」
木製の綺麗な装飾が施してありつつもシンプルで彼らしいデザインの扉を、蹴破るとおまではいかなくともそれでも結構派手な音を立ててバン!と扉が開かれた。今日も今日とて小難しい本と向かい合っていた青年はふと溜息を吐いて、人物を見つめる。扉を蹴破らんばかりに部屋に転がり込んできた少女こそ、現在青年の悩みの種だ。以前と変わらず舌足らずな話し方で冒頭の台詞を吐き、ニッコリと笑う。それだけならば可愛らしく愛らしい容姿なのだが、如何せんお転婆過ぎると青年は頭を抱えた。
赤を貴重とした滑らかな服に白い装飾。くるりと丸めるようにして両側からツインテールにしている頭。その上にちょこんとまた赤と白のふわりとした帽子を被っている。格好こそ膝丈のスカートだが、充分クリスマスの雰囲気を醸し出していた。そう、この少女が変装したつもりでいるのはサンタクロースだ。左手には飾り物程度に小さな子袋が握られている。恐らくサンタクロースがプレゼントを運ぶ為の袋に似せたのだろうと青年は瞬時に把握した。尤も袋は僅かな膨らみしか確認できず、そこに少女が慕う全員分プレゼントが入っているとはとても思い難いのだが。ついこの間のハロウィン時を思い出して大体予想をしながら、少女の格好を凝視していた青年は漸く口を開いた。
「なんだ、またクリスマスパーティーの誘いではないだろうな。」
「すごいだいちなんでわかったの?!そうだよ!みんなよんでるの!」
「悪いが俺はクリスチャンなわけではないからな。欠席させてもらう。」
「だめ!しょうちゃんだってよんでるんだよ!だいち、いっしょにいくの!」
「今日はこの本を読んでゆっくりしたいんだ。勘弁してくれ。」
「きょうはクリスマスパティーだからだいちもいくの!これきまってるの!」