第83章 【ガクエンサイ】
そう言えば、桃城くんはもう吹っ切れたのかな……?、なんてその顔をじっと見てしまう。
桃城くんは鳴海さんのことが好きで……
でも鳴海さんは英二くんのことが好きで……
英二くんは私と別れて鳴海さんと付き合っていて……
私は、いつまでたっても、英二くんを忘れることが出来なくて……
そんな私の視線に、なんすか?、そう桃城くんがキョトンとした顔で問いかけるから、あんまりジロジロ見ていたことに気がついて、あ、いいえ、何でもないんです、そう慌てて首を振って俯いた。
「小宮山さん、金魚がダメなら、ヨーヨー釣り、なんてどう?」
ふと掛けられた不二くんの声にハッとして顔を上げると、不二くんは私の方をいつもの優しい笑顔で見ていて……
その変わらない笑顔は、私の心を落ち着かせてくれて……
そうですね、やってみます、そう沈んでいく気持ちを振り払って差し出されたこよりに手を伸ばす。
手を伸ばしたところで、究極の不器用の私がそうそう簡単に釣れるわけはなくて……
とりあえずすぐに釣れそうな手前の水ヨーヨーに挑戦してみるけれど、全然輪っかに引っかかってくれなくて……
モタモタしているうちにこよりは切れて、あっという間に挑戦終了……
うん、こうなることは分かっていたけれどね……
「ほら……だから言ったじゃないですか……苦手だって……」
みんなが苦笑いする中、恥ずかしくて小さくなる私に、何色がいい?、そう不二くんが笑いかける。
不二くん、とってくれるの……?
いいのかな……なんて悩みながら、ビニールプールに浮かぶ色とりどりの水ヨーヨーを眺める。
目が止まったのは真ん中に浮かぶ赤いそれ……
ひときわ目立つその色は、英二くんが大好きな色で……
「……赤、がいいです……」
そう呟いた私に、不二くんの笑顔が少しだけ曇った気がして、あ、難しかったら別にどれでも!、なんて慌てて否定する。
そんなことないよ、そう言って不二くんはクスッと笑い、簡単にその水ヨーヨーを釣り上げてくれた。
ありがとうございます、そうお礼を言って受け取った水ヨーヨーは、本当に綺麗な赤色で……
そっと唇をよせて英二くんを思い出した。