第80章 【チカクテトオイヨル】
「アァッ、ァッ……ハァ、ァ……」
小宮山の少し荒くなった吐息と大きなため息……
確信に変わった欲望は、一気に加速度を増していき、ついには手の中にその証を吐き出させる……
ほんと、なにやってんだよ……
それは、今までで、一番、自分勝手で情けない自慰……
う、うう……、荒い息を嗚咽に変えた小宮山に、罪悪感が何倍にも膨れ上がる。
ごめん……、そうそっと謝りドアを閉めると、それからシャワールームに移動して、思いっきり頭から冷水をかぶった。
オレナンカ コノママ トケテ ナガレテ シマエバ イイノニ……
排水口に流れていく冷水の中には、そんな苛立ちと蔑みから溢れた涙も混ざり込んでいた……
「……小宮山?」
小宮山のため息と嗚咽の気配は明け方まで繰り返され、その度に自分自身を責め続けたけれど、そのうちウトウトしてしまって、そのままその微睡みに飲み込まれた。
ハッとして目が覚めた時には、もう小宮山の姿はそこにはなくて、ベッドもきれいに整えられていて、それから、テーブルの上には一万円札や千円札が、数枚、目立つように置かれていた……
「……なんで起こしてくんないんだよ……」
ガランとした部屋の真ん中で、茫然としながら立ち尽くす。
そんなに、オレと顔を合わすの、嫌だってのかよ……?
そりゃ、そうだよな……当たり前じゃん……
ズキン、ズキン____
押し寄せる圧迫感が、容赦無く胸を押しつぶしていく……
「あの、苦しいときは、呼んでくださいね……?」
脳裏に蘇る小宮山の笑顔……
まっすぐに、オレだけに向けられる、小宮山の……
「もし英二くんが望むなら、私、すぐに飛んでいきますから……遠慮、しないでくださいね……?」
小宮山、苦しいよ……?
上手く息も出来なくて、このまま、倒れてしまいそうだよ……?
でも、もう、いくら頼んだって、来てなんかくんないよな……
こんなの、いらないって……
項垂れたまま髪の毛をかき乱すと、グシャッとテーブルの上の金を握りしめた……