第75章 【ユウジントシテ】
次の日の朝、英二に指定された時間にあの東屋に行くと、英二の背中に小宮山さんが泣きすがっているところだった。
見たくないところに来ちゃったな……、そう思いながらも、そんな2人から目が離せなくて……
昨日よりずっと思いつめた様子の英二が、振り返ると小宮山さんを抱き寄せた。
戸惑う彼女の頬に触れ、そのままキスをしようとする……
英二、それはいくらなんでも残酷すぎるよ……
でも、その衝動を抑えきれない英二の気持ちも、受け入れてしまう小宮山さんの気持ちも、痛いほどよく分かって……
英二が立ち去った後、崩れるようにベンチに腰を下ろした小宮山さんに、なんて声をかけて良いか迷いながら近づくと、力ないその笑顔とどこまでも英二を気遣うその態度に胸が切なくなった……
そう、小宮山さんはいつだって英二中心で……
英二に捨てられた直後も、こうして一緒に帰っている今も、いつだって英二のことしか見ていなくて……
「……小宮山さんが嫌なら、無理にとは言わないよ……?」
僕の差し出した手に、小宮山さんが戸惑いながらその手を重ねてくれる。
うん、意地悪な言い方だったね……
でも良かった、キミに拒まれなくて……
思わずギュッと繋いだ手に力を込めると、小宮山さんの肩がピクっと跳ねた。
やっぱりさっき、感情を抑えられず、抱きしめたりしたのがまずかったかな……?
英二と別れたから、もう僕に甘えるのは悪いと言う小宮山さん……
僕のことを英二の友達としか見ていないその様子に、やり切れなさと虚しさが広がって行く……
英二、やっぱり小宮山さんは、キミじゃなきゃダメなんだよ……
繋いだ手をキュッと小宮山さんが握り返してくれた。
驚いてその顔に視線を向けると、彼女は寂しそうに空の月を眺めていて、きっと今も、その目の奥では英二のことを考えているに違いなくて……
僕ができることは、こうして友人として傍にいることだけ……
ただ黙って僕も一緒にその月を眺めながら、彼女の家へと歩き続けた。