第74章 【ウチコメルモノ】
「肘が開きすぎているな、角度は45度といったところか、ラケットの位置もあと28センチほど上がいい、軸足からの体重の移動をもっとスムーズに……」
「ぬどりゃーーー!バーーーニング!かかってきなってなモンキーーー!!」
「先輩、ポーンってきたら、さっと構えて、ダーーーッと打つんすよ!」
「気合と根性でどうにでもなる……!」
分かりません、ぜんっぜん、分かりませんからっ!
もう、みんなプレーヤーとしてはすごい選手でも、指導者としては致命的ですからっ!
そうな私の訴えるような視線に、不二くんはクスクス笑うと、僕が合図したらラケットを振ってごらん?、そう言って、再度ボールを打つ。
「はいっ!」
「は、はい!」
不二くんの掛け声に合わせて、思いっきりラケットを振り抜く。
腕に掛かる反動、ポンッ!と響いた心地よい音、ネットの向こうへと飛んでいった黄色いボール……
「あ、当たった……」
さっきまでかすりもしなかったボールが、ちゃんとラケットに当たり、それからしっかり相手コート内へと入ったことが信じられなくて……
転がって行ったボールと自身のラケットを交互に眺める。
「ナイスリターン!小宮山先輩!」
桃城くんの声にハッとする。
あ、あの……、そう戸惑いながらみんなの方をみると、いいタイミングだとか、グレイトーーー!とか、乾くんや河村くんが賛称の言葉をかけてくれて、海堂くんもガッツポーズをしてくれて……
「どう?、結構、スッとするでしょ?」
コートの向こうから掛けられた不二くんの優しい声……
その微笑みに、ジワジワと喜びが込み上げてくる。
うん、気持ちいい……
あの、パコンってボールがスイートスポットに当たった感覚……
嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。
「あ、あの……不二くん、ご迷惑でなかったら、その、もう一度……」
「いいよ、小宮山さんの気の済むまで付きあうから」
そしてまた正確な球出しをしてくれる不二くん、今度はみんながタイミングを教えてくれる。
やっぱりボールが打ち返せるとすごく気持ちよくて、その後、何度もそれを繰り返した。