第73章 【モクゲキ】
「小宮山、もう大丈夫なのか?」
「えっと、はい、あの……」
「具合が悪いならそのまま保健室で休んでいてよかったんだぞ?」
「は、はい、もう大丈夫です、ご心配、お掛け致しました」
教室に戻ると、英二くんがちゃんとトイレではない言い訳をしてくれてたようで、教科担当の先生が心配そうな顔をしながら声をかけてくれる。
他の子達も、璃音、今日、ずっと元気なかったもんね、なんて言ってくれて、本当に恵まれたな……なんて暖かい気持ちになる。
市川もご苦労だったな、そう言う先生に頭を下げて自分の席へと戻る。
英二くんに視線を向ける勇気はまだなかったけれど、ペコリと会釈だけして席に座った。
英二くんはずっと俯いていて、微かに、ゴメン、そう呟くのが聞こえた。
お願いだからもう謝らないで……その度に辛くなってしまうから……
そんなふうに思いながら、ただ黙って小さく首を横に振った。
放課後になると相変わらず学園祭の準備で、でも英二くんのいる教室に居づらかったから、みんなに謝ってすぐに生徒会の方に移動した。
生徒会室に向かう途中、各クラスやどの部活も学園祭の準備で慌ただしく動いていて、学校中がまさに浮き足立っていて……
みんな楽しそうだな……、なんてそれを横目にため息をついた。
生徒会室で忙しく働いていると、自然と英二くんのことを考える暇もなくて、でも人伝てに色々と噂話は耳に入って……
英二くんがミスコンのエスコート役を引き受けたとか、今が旬な鳴海さんがミス青学確実だとか……
英二も引き受けたんだし、小宮山さんもエントリーしようよ!、そうまた実行委員さんに誘われたけれど、申し訳ありませんがそれは出来ません、そうニコリともせず断った。
我ながら感じ悪いな、そう思ったんだけど、幸せそうな2人と同じステージに平気な顔で立つことなんて絶対無理な話で……
そんな私の態度にあからさまに不機嫌な顔をした実行委員さんだったけど、彼女の好きにさせてあげて?、そういつもの笑顔で不二くんが言ってくれたから、渋々だけど、やっと私のエントリーは諦めてくれたようだった。