第13章 【ムリトカクゴ】
目が覚めればそこはいつも同じ、見慣れた天井。
いつもと同じ暖かな布団に包まれ、愛猫のぬくもりに安堵する。
いつもと同じように背伸びをして、それからカーテンを開け空を仰ぐ。
東の空から昇る太陽が、街を、空を、公園を赤く染めていく。
徐々に明るくなるその空は、まるで私の心を表しているかのよう。
「おはよう、英二くん」
そっとつぶやき、そして微笑んだ。
「お母さん、おはよう!」
「……おはよう、璃音」
キッキンへむかいお母さんに朝の挨拶をする。
手伝うね、そう私が笑うとお母さんも、それじゃ、洗濯物、干してきてもらえる?そう言って笑った。
「……お母さん、ありがとう」
キッキンをでる間際にそっとお礼を言うと、お母さんはちょっと驚いた顔をしてそれから、どういたしましてと優しく微笑んだ。
バルコニーにでて朝の新鮮な空気を吸い込む。
洗い立ての洗濯物をパンと伸ばし、ハンガーに掛けてピンで留める。
朝の爽やかな風が私の髪や頬を撫でて、大丈夫、そう背中を押してくれた気がした。
いつものように準備をすませ朝食をとり、いつもの時間に家を出る。
いつものように校門を抜け、昇降口で靴をはきかえ、階段を登り廊下を歩く。
教室に入り自分の席に着くと、鞄から教科書を出して机にしまう。
それから本を読んで、心落ちつかせるいつもの時間。
「おっはよー!」
いつものように元気な声が廊下から響いてくる。
おはよー、英二!そう答える声がこだまする。
そして教室に飛び込んでくる、みんな、おっはよーの声。
「おはよー、小宮山さん!」
顔を上げて心待ちにしたその声の持ち主をジッと見上げる。
「おはようございます、菊丸くん」
静かにそう言って精一杯の笑みを浮かべる。
いつもと違う、初めての彼に向ける私の笑顔。
きょとんとした顔で英二くんは私を見返して、それから、あ、うん、おはよー……そうちょっと戸惑った顔でもう一度挨拶をした。