第70章 【ヤサシイウソ】
でも、英二くん、ちゃんと断ってくれてるんだ……
良かった……、安堵から緩む口元、不二くんに見られて、恥ずかしくて慌てて俯き頬を引き締める。
「大丈夫だよ、英二は目立つのは好きだけど、不本意な形で注目を浴びるのは嫌いだからね」
相変わらず励ましてくれる不二くんの優しさに、弱ってる心がぐらりと揺れる。
聞いてもらっちゃおうかな……少しだけ……
「……ダメですよね、私、英二くんのこと信じてないみたい……」
「誰だってそうなんじゃないかな?、好きだからこそ、不安になるんだよ」
「でも……私の場合、付き合えることになっただけで贅沢なのに……」
吐き出した弱さは涙となって、ポロリと頬を伝い落ちる。
泣くつもりなんてないのに……不二くんを困らせちゃうのに……
だけど一度こぼれ落ちた涙はそう簡単には止まってくれなくて、胸の不安もモヤモヤも一緒になって溢れてくる。
繰り返された無言電話……
鳴海さんの挑戦的な態度……
そして、英二くんからほんのり香った彼女の香り……
さすがに言えないけれど……
とても声に出来ないけれど……
凄く、不安で不安で、仕方がないの……
私の涙を黙って見守ったくれていた不二くんが、そっと頬にその綺麗な手を伸ばそうとする。
触れる直前にピクッとめると、代わりにポケットからハンカチを取り出して差し出してくれた。
不二くん……いつもありがとう……
情けない顔のまま笑顔を作ると、ギュッとそのハンカチに顔を隠す。
「少し、遠回りして帰ろうか?、月が綺麗だよ」
何も言わず、いつもの優しい笑顔を向けてくれる不二くん……
お母さんに涙を見せないように気遣ってくれてるんだね……
ハンカチから漂う不二くんの香り……優しい匂い……
空を見上げて眺めた月は涙で滲んでいたけれど、不二くんが言うようにとても綺麗で……
結局、鳴海さんのことは何も言えなかったけれど、流した涙のぶんだけ心が軽くなった気がした。