第3章 【スベテノハジマリ】
早朝の空気はすがすがしい。
朝もやの幻想的な雰囲気や、小鳥のさえずりや、頬をくすぐる風や……
視覚も聴覚も触覚も、すべてを研ぎ澄ませてその素晴らしさを逃さないように全身で受け止める。
青春台は東京と言っても、都心から離れた郊外にある。
だからこの時間は本当に静か。
自宅近くの少し大きめのこの公園は、私と彼とネコ丸の思い出の場所。
あ、正確にはちょっと違うんだけど……彼は私の存在に気が付いていないのだから、彼の思い出の中に私はいない。
勝手に私がそう思っているだけ。
それから「ネコ丸」っていうのは、「菊丸くんの猫」だからネコ丸。
我ながら安易だなーと思ったけれど、あの子にぴったりな名前でとても気に入っている。
そんな思い出のこの公園は、緑に囲まれ、小川が流れ、小鳥たちや小動物の憩いの場所。
それから犬の散歩をする人がいたり、ジョギングする人がいたり……
それでも少し奥のベンチに座れば、沢山の緑がこの身を隠してくれて、誰も私の邪魔をしない。
そう、まるでそこは私だけの秘密の場所。
思い出を差し引いてもここが大好き……
充実した気持ちで東屋のベンチに座り、持ってきた本を広げる。
外に出て良かったな……そう思いながらゆっくりとページをめくった。