第62章 【シンガッキノケツイ】
「おっはよーん、不二!こんなところでなーに固まってんの!?」
そのオレの声に俯いていた小宮山がハッとして顔を上げる。
それから、不二に後ろから飛びついているオレを見て、すげー驚いた顔をするから、小宮山さんもおっはよーっ!、そうニイッと笑って挨拶すると、おはようございます、菊丸くん、そう小さい声で返事をしてくれる。
「ったく、不二まで固まってないでよね、小宮山、こういうの苦手なの分かってんじゃん!」
そう不二の背中に飛びつきながら、コッソリと不二に文句を言うと、ゴメンゴメン、なんていつもの笑顔で不二が謝る。
噂通り付き合ってる振りなんてしなくていいから、余計な噂が立つような行動はやめてよね、そう頬を膨らませてもう一度釘を刺す。
「あ、あの……すみません、いつも面倒なことに巻き込んでしまって……」
「別に構わないよ、前から言ってるけど、僕は小宮山さんの味方だから」
英二のためならごめんだけど、そう小宮山に優しい笑顔を向ける不二に、ずっと硬い表情だった小宮山も、少し柔らかい笑顔を見せた。
「それにしても、本当に秘密にするんだね?」
よく英二、納得したね、そう不二が声を潜めて呟いて、そらから意味ありげに笑う。
本当に器用だよね、呼び分けるの、未だに名前で呼べないくせに、そう続ける不二に、うっさいな、なんて唇を尖らせる。
だいたい小宮山とのこと、秘密にしようって言いだしたのだって、オレからだっての!
『オレたちのことさ、学校ではやっぱ秘密にしてたほうがいいと思うんだよね……』
それは夏休みも終盤に差し掛かかったある日、小宮山の部屋でそう切り出したオレの一言。
8月も下旬になると、普段連絡をとってない学校のやつらからのLINEが自然と増えてきて、新学期の準備だって小宮山の動きも慌ただしくなってきて……
あぁ、学校が始まるんだなー、なんて嫌でも実感すると同時に、小宮山の学校生活のことも心配になってきて……