第61章 【セイチョウ】
「……オレ、この夏休みのこと、きっと一生忘れない……」
ふと頭の上で聞こえた英二くんの落ち着いた声……
ハッとして顔を上げると、英二くんがとても優しい目で私を見つめていた。
吹き抜ける風がまた髪を舞い上げる。
乱れたそれを英二くんが指でとかすように整えてくれる。
うん……忘れない……
色々あった夏休み……本当に色々……
さんざん英二くんに無視され邪険に扱われつづけ、目の前で鳴海さんと仲良く手を繋いで帰るところを、心臓が引き裂かれる思いで見送った。
気を遣ってくれた不二くんに慰めてもらいながら、心身ともにボロボロの状態で始まった夏休み……
イギリスに行くお母さんを空港に見送りに行って、ナオちゃんたちに再会して、また地獄が始まりそうになって……
怖くて、身体が動かなくて、必死に助けを求めたら、いるはずのない英二くんが助けてくれて……
不安な私のためにお母さんがイギリスに行っている間、ずっと泊まってくれることになって、またセフレでいることを許されるようになって、それから、お互いの過去と向き合うことが出来て……
お互いの気持ちを確かめ合って、セフレから恋人同士になれて、そして、英二くんの愛をこれでもかって言うくらい、沢山感じられらようになって……
こんな幸せな時間、今まで感じたことなかった……
まるで一生分の幸せがギュッと詰まっていたような、そんな夏休み……
「私も……」
そっと呟いて頬を寄せると、英二くんがもう一方の頬にふれる。
顔を上げるとすぐ傍に彼の顔があって、瞳を閉じてそのキスを受け入れる。
チュッという甘いリップ音を心地良く感じながら、またそっと頬を寄せてふふっと笑う。
それからどちらともなく空を眺める。
茜色と朱色と、それから藍色のグラデーション……
空ってきれいだな……、ポツリと呟く英二くんの言葉にそっと滲む涙を指で拭う。
世界のすべてが輝いて見えた
夏休み最終日____