第58章 【ヒトリ】
ああ、今日は朝から家中のお掃除したり、空港にお母さんを迎えに行ったりして、一日中バタバタしてたから……
ずっと気を張っている間は気がつかなかったけど、自分で思っている以上に身体は疲れていたようで……
こうして英二くんの声を聞いていると、直ぐに眠気が襲ってきてしまい、必死にその眠気に対抗する。
『小宮山、眠い……?』
「はい……あ、いいえ……ダイジョウブ……」
『寝ていいよん?小宮山、寝るまで電話してるからさ?』
「は……い……あ、いいえ……まだ……寝ません……から……」
英二くんの声はとても心地よくて、ベッドに残るその残り香も凄く安心できて、まだ寝たくないのに、もっと英二くんの声を聞いていたいのに、結局、意識は微睡みの中へと沈んでいく。
ああ、目が覚めたら、英二くんに会いたいな……
ずっと傍にいたいな、一週間なんて期間限定じゃなくて……
「英二、くん……あの……」
『ん?どったの……?』
「また……来て下さいね……?、英二くんの香り……消える……前に……」
『へ、香りって……?』
「ベッド……英二くんの、香り……凄く……ドキドキして……凄く……キモチイイ……の……」
心地よい微睡みの中で無意識にそう呟いた私に、なかなか英二くんの返事は返ってこなくて、そのまま完全に意識を手放していく。
『……小宮山、またオレにひとりでさせるつもりー?』
私が定期的な寝息をたてはじめた後、まだ繋がったままの携帯の向こう側で、英二くんがはぁ~っと大きなため息を漏らす。
だけど既に夢の世界へと旅立っていた私には、当然そんな彼の声が聞こえるはずもなく……
ただひたすら、英二くんの香りと幸せに包まれて、穏やかに微笑んでいた____