第58章 【ヒトリ】
「うん、忘れ物はなさそうですね」
小宮山が家中を見回して、オレの私物が残されてないかを確認する。
今日はイギリスに行った小宮山のかーちゃんが一週間振りに帰ってくる日。
つまり、このなんちゃって同棲生活が終わりを告げる日。
空港までかーちゃんを迎えに行くと言う小宮山に、オレの腕の中で真っ青になって震えていたあの日の様子を思い出す。
小宮山、オレ、行かなくて大丈夫……?、そう不安から問いかけると、大丈夫ですよ、ひとりで行けますから、なんて小宮山は笑った。
この一週間、色々あった。
偶然、不二が乗る予定の新幹線が車両故障で飛行機に変更になって、偶然、小宮山と水島達も空港で出会ってて、そんで、小宮山を助けることができて……
酷く怯える小宮山を1人にできなくて、かーちゃんが帰ってくるまで泊まることにして、小宮山が中学のころの話をしてくれて、それからオレも生い立ちを話して、そして自分の気持ちと向き合った。
「やっぱオレ、小宮山のかーちゃんに、ちゃんと挨拶したほうよくない?勝手に一週間も泊まっちゃってさ……」
「無理しなくていいですよ?合わせる顔、無いんじゃなかったですか?」
「むー、今は状況が違うだろー!」
それは初めてこの家に来たとき、オレが小宮山に言った一言。
だって、オレが小宮山にしてきたことを思えばそれも当然じゃん……?
だけど、それはセフレだったときの話……
頬を膨らませて小宮山を後ろから包み込む。
「……印象悪くなんの、避けたいじゃん?」
「大丈夫ですよ、ちゃんと私から言っておきますから……」
英二くんはそんなこと気にしないで下さい、なんて小宮山はすぐにオレの腕の中を抜け出したから、その素っ気ない態度にカチンと来る。
「……なんか、あっさりしてんね」
そう不機嫌な様子のオレに、えっと……英二くん?そう意味が分からない顔をした小宮山は、あの、どうしたんですか?なんて聞いてくるから、べーつにー、そう言ってまたふてくされた。