第56章 【フタリ】
「小宮山、オレさ、ずっと小宮山を抱いてるつもりだったけどさ、本当はオレが抱いてもらってたんだと思う……」
行為の後、彼の腕の中で微睡む私の髪を撫でながら、英二くんはそう優しく囁いた。
えっと、この間は私が抱きましたよ……?そう首を傾げる私に、違くてさ、主導権じゃなくて、気持ちの問題……、そう英二くんはゆっくりと声にする。
「空港で小宮山を助けたときもさ、オレ、小宮山の側にいてやりたいって思ったけど、本当はオレが側にいて貰わなきゃダメなんだ……」
ずっと大好きだった。
あの雨の日、その寂しそうな視線から目をそらせなかった。
学校ですれ違う度に息を止めた。
同じクラスになって、毎日本に隠れて見つめ続けた。
英二くんの本性を知ったあの朝。
大切なものを奪われ絶望したあの体育館倉庫。
それでも嫌いになれなかったあなたの温もり。
そっと頬を寄せてその身体に腕を回す。
英二くん……、私、なにも出来ないけれど、側にいることだけは出来るから……
英二くんが苦しいときは一緒に胸を痛めて、泣きたいときは一緒に涙を流すことが出来るから……
私たち、傷付く辛さを知っているから……
2人なら、必ず乗り越えていけるから……
「英二くん、明日って明るい日って書くんですよ……?」
「へ……?、ああ、うん、それがどったの……?」
「朝日が眩しく光り輝くのは、今日も頑張れって背中を押してくれるから……
月や星が穏やかに照らしてくれるのは、1日お疲れさまって、優しく包み込んでくれるから……
空がどこまでも青く澄んでいるのは、遠い未来までまっすぐに進んでいけるように導いてくれるから……」
私も英二くんに救ってもらえたから……
英二くんのことも救ってあげたいから……
空は、辛く苦しいものじゃないんだって、大きく包み込んでくれるものなんだって、実感してほしいから……
「2人なら、きっと、明るい明日になりますよ……?」
彼の目から涙がこぼれ落ち、英二くんは慌ててそれを拳で拭う。
小宮山、あんがとね……、そう小さく呟いた。