第2章 【ネコトオモイデ】
「そうそう、そうやって愛想ふりまいてな、そのうち優しい人が拾ってくれるからさ」
そう言ってみゃあと甘えて鳴く子猫を撫でながら、彼はそう続ける。
「うち?うちはダメだって、タイチってでっかいオウムがいるからさ、お前みたいなおチビちゃんはあっという間に食べられちゃうぞ?」
はは、うそうそ、流石に食べねーって、と彼が優しく笑う。
それから子猫を見つめる彼の優しそうな笑顔が、ふっと寂しそうな、どことなく切なそうなものに変わる。
「お前は……自分の境遇に負けないで、強く生きんだぞ?」
そう言ってそっと子猫を胸に抱き、どこか遠い目で雨空を見つめる彼のその姿は、ギュッと心臓を切なく締め付けた。
どうしてそんなつらそうな顔をするの……?
どうしてそんな寂しそうな顔をするの……?
そしてどうして私は……あなたから目をそらせないの……?
雨の中に走り去る彼の後ろ姿が見えなくなっても、しばらくその方向を見つめたまま動くことが出来なかった。
「……お前、うちに来る?」
彼が立ち去った後、ゆっくりと段ボールに近づいて、そっと子猫を抱き上げた。
みゃあと私の頬にすり寄りゴロゴロと喉を鳴らす子猫を包み込んでいるのは彼が残していったタオル。
【Eiji Kikumaru】
キクマル……エイジ……くん……
その日から彼は私の中にずっと居つづけて、優しい笑顔と切なそうなあの瞳を繰り返してみせるのだった。
カーテンを開けて窓の外に目をやると、東の空が白み始めていた。
目覚まし時計はセットした時刻の2時間も前を告げている。
もう眠れそうにないな……
ベッドから起き出すと私服に着替える。
「行ってくるね、ネコ丸」
そうベッドの上で丸まって眠る愛猫の頭をそっと撫で、静かに自宅を後にした。