第56章 【フタリ】
「小宮山、オレ、小宮山が……すげー……好き……」
耳元で囁かれた甘い声。
しっかりと抱きしめられた力強い腕。
全てがとても心地良い。
夢みたい……
でも夢じゃない……
私のことを……ううん、誰のことも絶対好きにならないと言った英二くんが、私のことを好きだって言ってくれた……
嬉しすぎて今すぐ死んじゃいそう、そう思わず口にしてしまい、小宮山に死なれたら、オレ、すげー困るって……なんて英二くんはプッと吹き出す。
「小宮山、オレ、大切にするから……ちゃんと、自分の気持ち、コントロール出来るように頑張るから……」
だから、ずっとオレの側にいて……?、そうまた英二くんは私を抱きしめる腕に力を込めた。
「ね、英二くん、帰りましょう……?」
私の家に、一緒に……手をつないで……
しっかりと離れないように指を絡めると、どちらからともなく目があって、恥ずかしくて慌てて視線を逸らす。
またこっそり視線を戻すと、また同じタイミングで視線が重なり、可笑しくてクスクス笑いあう。
恥ずかしくて照れくさくて、でも凄く嬉しくて……にやける顔を悟られないように必死に俯いて髪で隠す。
そんな私の様子に英二くんも照れくさそうに、人差し指で頬をかいた。
朝の爽やかな風が2人を包み込み、そして通り過ぎていく。
空を見上げると薄くなった白い月が私たちを見下ろしている。
遠くを旋回する白く光る鳩の群と、必死に呼び合う雀達の囀り。
全てが輝いて見えた特別な朝、別格の空気……
英二くん、私、今まで、いつも受け身で、英二くんにあわせることばかりで……
『小宮山さんは英二にとって特別な人』
不二くんに英二くんの家からの帰り道で言われたその一言。
英二くんを救う存在……ずっと半信半疑、ううん、全然信じられなかった。
だけど今ならわかる。
私は英二くんにとって
特別な存在____
家の鍵をあけて中に入ると、すぐに抱きしめあう。
大切なものを扱うように優しく、だけどしっかりと力強く……
大好きな人に好きだと言ってもらえた喜びに、心が満たされた。